その「声」に、迂闊に返事をしてはならない

 怖さ、不気味さの演出がとても素晴らしい作品でした。

 まず舞台の設定が秀逸で、「真夜中のトイレへ向かう途中の廊下」となっています。これは多くの人間が人生で最初に遭遇する『恐怖スポット』であり、恐怖の原体験と結びついた場所です。

 そうして読者は薄気味悪い場所のイメージを想起されつつ、作中で起こる怪奇な事態へ踏み込んでいくことになります。

 主人公の身にそれから起こること、知らずに踏んでしまったペナルティ、課せられるルール。短い中で二転三転し、ぐいぐいと引き込まれていきます。

 その先の結末もまたホラーとしての強烈な皮肉が効いていて、とても見事な仕上がりでした。
 端正に計算されて書き上げられた、読み応えのある一作てす。