疾走感ある文章と展開に、溢れる芸術のパワー。型破り創作者の姿が胸を打つ
- ★★★ Excellent!!!
没落貴族の娘が、型破りな天才青年と出会い、隠された才能を開花させていく物語です。
とだけ書くと、よくある栄達物語のようにも聞こえるのですが。
本作の面白さは、「才能の開花」が表層的なものでなく、芸術・創作のありかたを理解することによって起きた必然的な変化として描かれている点にあるように思います。
天才青年はなぜ娘を求めたのか?
創作における自分らしさとはいったい何か?
それらを理解した時に、決定的な変化が訪れます。
決して、何か都合のいいきっかけで、よくわからないまま才能発現するわけではありません。
また会話は軽妙で、文章には疾走感があります。
主人公の心情など、かなり書き込まれているはずなのですが、文章に心地良いリズム感があるため読んでいて苦になりません。
そのため、登場人物たちが芸術・創作へ向ける姿勢が、読んでいてすっと入ってきます。
一点だけ難があるとすれば、タイトルからは作品の持つ主題が見えにくいことでしょうか……
一見よくあるテンプレ異世界恋愛ものに見えてしまうので、この物語を潜在的に好みそうな方々が見過ごしているかもしれないと、ちょっと心配しています(だからこのレビューを書いている、という側面もあります)
芸術や創作にまつわる物語を好みそうな方々に、一人でも多く届けばいいなと思っています。