没落貴族の娘が、型破りな天才青年と出会い、隠された才能を開花させていく物語です。
とだけ書くと、よくある栄達物語のようにも聞こえるのですが。
本作の面白さは、「才能の開花」が表層的なものでなく、芸術・創作のありかたを理解することによって起きた必然的な変化として描かれている点にあるように思います。
天才青年はなぜ娘を求めたのか?
創作における自分らしさとはいったい何か?
それらを理解した時に、決定的な変化が訪れます。
決して、何か都合のいいきっかけで、よくわからないまま才能発現するわけではありません。
また会話は軽妙で、文章には疾走感があります。
主人公の心情など、かなり書き込まれているはずなのですが、文章に心地良いリズム感があるため読んでいて苦になりません。
そのため、登場人物たちが芸術・創作へ向ける姿勢が、読んでいてすっと入ってきます。
一点だけ難があるとすれば、タイトルからは作品の持つ主題が見えにくいことでしょうか……
一見よくあるテンプレ異世界恋愛ものに見えてしまうので、この物語を潜在的に好みそうな方々が見過ごしているかもしれないと、ちょっと心配しています(だからこのレビューを書いている、という側面もあります)
芸術や創作にまつわる物語を好みそうな方々に、一人でも多く届けばいいなと思っています。
勢いが凄い作品でした。軽妙な文章ですらすら読めるからというのもそうですが、主人公の出会った〝とんでもなくデリカシーのない青年〟が凄いのなんの。デリカシーのなさゆえの強めな言葉の数々は嵐のよう。ゆっくり読もうと思っていたのに、気付けばあっという間に全部読まされてしまいました。
これはもう主人公もやるしかなくなる。こんな人に間近で「やれ!」と言われたらやらないという選択肢はどこかに飛ばされる。しかも目の覚めるような衝撃があったのなら尚更でしょう。
青年は最後まであらゆる方向に暴言と取られかねない言葉ばかりを吐き出しまくっていますが、その内容の真っ直ぐさのお陰で乱暴さが霞んで、なんだかとても清々しい気分になりました。