なぜあえて「ありふれた」なのか。解った時に見えてくるもの、そしてお猫様

※26話時点でのレビューです。
※また、作品内容について大きなネタバレを含みますのでご留意ください(ネタバレ開始部分にはその旨の注記を入れています)


本作、少なくとも現時点(2024/12/31朝)では、作品ページが非常に簡素です。
あらすじは1行、キャッチコピーと合わせても「どうやら子猫を拾ったことで出会いがあるらしい」くらいしか内容がわからない。
タイトル「ありふれた恋の話」にも、キャッチーな派手さはない。

そんな本作ですが、内容としては現代舞台の男女恋愛ものです。
会社を辞めて大学院へ進学しようとしている男主人公が、早朝のゴミ集積所で捨てられた子猫を見つけ、それをきっかけにヒロインの東原さんと出会う――といったお話です。

ただ、二人が出会ってすぐ親密になるかというと、そんなことはありません。
あくまで最初は「偶然会っただけの近所の人」です。
それが、大家の渡会《わたらい》さんも含めた三人で子猫を世話したりするうちに、少しずつ距離が縮まっていきます。
他人→知り合い→気になる人→告白相手、と徐々に距離が詰まっていく過程はとても現実味があります。

作中、皆の関心の中心にいるお猫様ですが、この子の外見や行動の描写も細かくて、猫好きな人はほっこりするかもしれません。
作中、主人公や渡会さんが「猫に対してこういう扱いをすべきではなかった」と反省する場面もしばしばあり、猫に慣れていないがゆえの試行錯誤も(猫飼いの方々から見てどうなのかはわかりませんが、飼ったことがない筆者の目には)微笑ましく映りました。

そして、話の進行に従って判明するひとつの事実があります。
【※以降、重ネタバレ部分に入ります】









ヒロインの東原さんは難聴で、それゆえに人との深い関わりを避けている傾向があります。
主人公は、それでも東原さんと関わりを持とうと、あれこれ手を尽くすのですが――

ここからはレビュー筆者の推測でしかないのですが、本作のタイトルに「ありふれた」と入っていること、どんな内容の話なのかを極力伏せるような作品ページのつくりになっていることには、本作を「特別な誰かの話」として扱いたくないという作者様の意図があるかもしれない、と思っています。
本作を「障碍者と健常者の感動的な恋愛の話」と打ち出すことは可能でしょうし、そうした方が閲覧数は稼げるのかもしれません。
しかし作者様は、あえてそうしていない。
そこには何らかの意図があるように、レビュー筆者としては思えるのです。

現在まだ物語は中盤くらいと思われ、この後の展開がどうなっていくのかはまだわかりませんが……
本作、日常描写もストーリーラインも現実味があって、お猫様もかわいいです。
現実に近しい「ありふれた」恋愛物語をお求めの方に、お薦めします。