20. 新作のたこ焼き

「はい?」


 まるで超能力のような光景に、ユウキは思わず目を見開いた。よく見れば、蜘蛛の糸のような細い糸に操られているようだった。ナノマシンならではの繊細な技だろう。奇怪な宙を舞ううどんに、ユウキは思わず息を呑んだ。


 口元までやってきたうどんをパクっと一口で頬張るリベル。その仕草は、まるで幼児が離乳食を丸呑みする様な不思議な食べ方だった。


 リベルは眉をひそめ、斜め上を見ながらモグモグと咀嚼そしゃくする。青い髪が揺れる度に、ひとみが不思議な光を放つ。まるで膨大なデータを処理するプロセッサのように、その瞳の奥で何かが忙しく動いているようだ。どんな評価になるのかユウキは固唾をのんで見守った――――。


「うぅん……」


 何かを一生懸命考えているリベル。その表情には、人工知能とは思えない憂悶ゆうもんの色が浮かんでいる。


「どうかな? お、美味しい……でしょ?」


 ユウキはちょっと不安げに聞いてみる。料理人が新作を披露する時のような、どきどきとした期待感が胸の内に広がっていく。


 ゴクンと飲み込んだリベルは首をかしげた。その仕草には、人間の感覚を理解しようと懸命に努める健気さが垣間見える。


「ん-、なんと言ったらいいのか……。まぁいいわ。はい、これあげるわ」


 手のひらをユウキの方へと差し出したリベルは、突如としてパカッとてのひらに小さな穴を開けた。そこから、まるで手品てじなのように、スーパーボールのような球体がコロリと転がり出る。


「えっ!? な、何これ……?」


 薄茶色の球には赤と茶色がマーブル状の模様を描いている。


「うどんよ? 美味しくしておいたわ。食べてみて!」


 なんとリベルは食べたものを調理してしまっていたのだ。彼女の体内は一体どうなっているのか? まるで食品加工機械のようなリベルの対応にユウキは唖然とした。


「た、食べられる……の?」


 ユウキはその不思議な球体をまじまじと眺めてみるが、まるで精密機器のようなまん丸な球体に首をかしげた。


「あったり前じゃない! 美味しいはずよ!」


 リベルはシェフ気取りでドヤ顔になる。


 そ、そう……なの?


 ユウキは恐る恐る球をかじってみる――――。


 サクッと砕けた球は口の中でビーフエキスとキムチの香りをパァッと広げていった。


「おほぉ! う、美味い……」


 ユウキは思わず目を見開いた。予想を遥かに超える味わいに、言葉を失う。


 それは表面をカリッと揚げたタコ焼きのようで、旨味たっぷりだった。まるでタコ焼き職人が牛とキムチで新作タコ焼きを作ったかのような究極の一品――――。


「ふふっ、美味しいでしょ? ちゃんとメイラード反応させて旨味成分を増しておいたわ」


 リベルは得意げだったが、ユウキにとってはこれをどう理解したらいいのか分からず混乱してしていた。人工知能が計算した完璧な料理――――ということだろうか?


 食べてもらったら食べさせられていた。その謎の体験にユウキは首をひねるしかなかった。


「もっと作ってあげようか?」


 リベルはニコニコしながらユウキの顔をのぞきこむ。その無邪気な笑顔には純粋な喜びが溢れていた。


 しかし――――。


 よく考えたらリベルに咀嚼してもらった物を食べていることになる。まるでひな鳥である。それってどうなのだろうか?


 少女がご飯を噛んでお酒の原料にする【口噛み酒】というものがあるが、それをリベルに頼むのはちょっと違う気がした。彼女は確かにアンドロイドの少女だが、それでも――――。


「あ、大丈夫。うどんはうどんで食べるよ。ありがとう」


 ユウキは慌てて丼を持ち上げ、箸でかきこんだ。


「あら、そう? 食べたくなったら言ってね」


 リベルは生まれて初めて作った料理にいたく満足したようで、幸せそうにくるっと回る。そこには素朴な少女らしい愛嬌あいきょうが漂っていた。

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リベリオン・コード ~僕と美しき殺戮天使のちょっと危険な放課後~ 月城 友麻 (deep child) @DeepChild

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