言葉が通じぬが故の、拙くも丁寧なやり取りに注目です
- ★★★ Excellent!!!
【あらすじ】
時は陶王朝、馥宗の御代。
元宮廷画家の宦官・洛雪は皇帝からある命を受ける。
それは、この度皇帝が平らげた西方の遊牧民族・イル族出身の胡妃の絵姿を描くことであった。
……
「座る」
『グマルハー』
「あなた」
『サエスメ』
「前」
『メスルヤラ』
……
洛雪は胡妃の元を訪い、画の制作を進めていく。
異民族出身の胡妃に、陶の言葉は通じない。
洛雪が描く間、いつも花窓の外を眺めている胡妃。
その視線の先にあるものとは……?
【おすすめポイント】
(1)言葉が通じないからこそ
互いに異なる言葉を操る洛雪と胡妃。それ故にスムーズにやり取りをすることは出来ないですし、小さな行き違いなどを生じることもあります。しかし、だからこその丁寧なやり取りが印象的です。
個人的には、洛雪が胡妃を描くため、彼女に化粧を施すシーンが好きです。
(2)水墨画のようなトーンで語られる語り
基本的には洛雪に寄り添った視点から語られる本作。洛雪の眼を通して描き出される世界は、静かで、どこか乾いたような哀しみを湛えています。それは、本人の性格と、宦官となるに至った洛雪の過去に起因するのでしょう。この語りが読み手を物語の世界に深く呼び込んでいきます。そしてまた、抑えられたトーンが故に、その中で描かれる胡妃の瞳が鮮烈に印象づけられています。
(3)穏やかながら清々しさのある読後感
皇帝の命通りに胡妃の画を描き上げた洛雪。「もう会うことはないだろう」と胡妃に別れを告げる洛雪を待ち受ける事態とは……?
途中ハラハラするシーンもありますが、最後は未来を感じさせる感動的な終幕でした。
後日談も含め、よく練られた構成で読み応えがあります。
中華な世界観が好きな方は勿論、物語世界に浸りたい方にもおすすめです!