第30話 木崎魅美はデブである

 身も蓋もないサブタイトルである。


 さて、これまでさんざん魅美(ついでに駆)に対して大食い描写が差し込まれていることで、読者諸君には一つ、疑問が浮かび上がっていることだろう。


 実際のところ、魅美はどの程度デブっているのか、である。


 そう、これだけ食っている上に、記念すべき第一話からして駄肉 on the スカートのベルトをやらかした本作メインヒロイン(笑)なので、デブはこの時点で確定である(デブがラブコメのメインヒロインとか正気か、というツッコミは受け付けない)。




 まず、外見上で確認できるポイントから見てみよう。


 一月市高校の女子制服がセーラー服をメインとしたデザインであるというのは過去にも触れたとおりだが、セーラー服というのは体型、特に腰の付近のシルエットがハッキリしづらいという特徴を持っている。


 特に、バストが豊かな生徒はトップ部分からストンと幕を下ろしたように布地が下がり、そこから壁が出来上がったような形となるためだ。


 いわゆる「乳カーテン」と呼ばれるものだ。


 魅美は同年代の中でもかなり立派なバストサイズを誇っており(そりゃあれだけ食っててつくべき場所に脂肪分がついてなきゃ嘘だ)、当然のように乳カーテンが出来上がり、それによって体型がすっぽりと隠されてしまっている。


 なお、これとは対照的な「乳袋」のようなデザインは、二次元的な表現、もしくはコスプレなどで意図的に生み出さなければ発生し得ない。


 ……要するに、制服を着ている分には体型が浮き出る事がないため、バストサイズが大きいだけ、むしろ程よくグラマラスな体型に見えるだけで、デブという印象は受けない。




 他の部分はどうだろうか。


 体のパーツで基本的に露出状態となる部位である顔だが、魅美の顔は特に丸みを帯びて太っている、といった印象は受けない。


 もっとも、シャープで痩せ細っているとも言えないため、程々と言ったところだろうか。


 言い方によっては「相応に女性的な顔つき」の範疇に収まっている、つまりかわいらしい部類の顔といえるだろう。


 ここまでは主に上半身部分だが、これを見る限りでは太っているという印象を受ける人はほぼいないと思われる。




 両腕を広げるなどして、制服が上へと引っ張られる際に見えやすい腹回りはいかがだろうか。


 これは見えるタイミングにもよるが、色々と怪しいかもしれない。


 前述のようにスカートのベルトに駄肉が乗るという惨状はあるものの、それをインナーでうまくごまかすことができている……のだが、見えるシチュエーションによっては必要以上にむっちりして見えてしまう事もある。


 とりあえずまだベルトの位置は変わってないようなので、四股名を用意する必要ではなさそうだが……。




 冬服では確認できないものの、二の腕などの腕周りはどうだろう。


 少なくとも指先は普通科、もしくはややほっそりとした印象を受けるが、更にその上となってくると若干怪しい。


 というのも、二の腕が割りと太いのだ。


 決してブヨってるわけではなく、むしろがっしり系の健康的な太さなのだが、ひとまずここは制服で隠されておいた方が無難かもしれない。




 脚部を見てみよう。


 女子はスカートであるため、顔と同じく隠すのが難しい……いや、女子としてはおしゃれの為にも出しておきたい部位である。


 魅美はというと、一月市の平均的高校生と同様、スカートの丈は膝上約15㎝程の丈だ。


 つまり、結構足が見えるわけだが……。




 ドム。




 そう、黒い三連星とか、踏み台にされたりとかの「ドム」という評価である。


 人は「太ももは『太もも』という名前なのだから太いのが当たり前」というが、それを差し引いても太い。


 見る人間によっては「大根」とも「生ハムの原木」とも評価するかもしれない。


 だが決してだらしなくぶよぶよとしているわけではなく、適度にパンパンで筋肉質に膨らんでいるのである。


 ……いずれにしてもここにきて相撲部屋が一気に近づいてきてしまった。




 当然その太ももの根元であるお尻はなかなかのわがままサイズを誇っていて、スカートからでも割とわかりやすくサイズが主張されている。


 どこぞの歌では「お尻の小さな女の子」がはやりらしいが、そんなものを鼻で嘲笑い尻で踏み潰すかのようなどすこいサイズである。


 制服の乳カーテンでギリギリ誤魔化せていた腹回りも、ここにきて隠し切れなくなってくる。


 しかし、それでも角界入りに至るかと言われると、まだまだ物足りない部分があるかもしれない。




 総評としては、魅美は「着痩せするタイプ」、「まだ誤魔化せてるデブ」という事になるだろう。


 ふとした拍子にはっきりとボディラインが見えれば、すぐさま「ぽっちゃり」だの「だらしねぇ腹」だのと苦言を呈されそうではあるが、今のところセーフである。




 しかし、そんなものいつまでも隠し通せる訳もなく。




「魅美ち割とヤバいな!」


 寧音が容赦なく摘まんできた。


 そう本日は体育、すなわち着替えを行うタイミングがある日だ。


 セーラー服とインナーを脱ぎ、体操服を着ようとしたブラだけの無防備なタイミングを見計らって、襲撃者のフェアリーが食いついたのである。


「みぎゃああああ!!! つ、摘まむなああああ!!!」


 細長い尻尾でぺちぺち寧音を叩いて引きはがそうとするが、青い肌をもにもにと揉み続ける寧音の指の動きは止まらない。


「えーでも魅美ちのこれすっごい揉み心地いいんだもーん。体脂肪体脂肪~♪」


 かく言う寧音はフェアリー特有の小柄な体型もあって非常にスリム、また中学時代テニスで鍛えてきただけあって体の各所が非常に引き締まっている、実に健康的な体型だ。


 なお、スリム過ぎてついてほしい部位にはあまり脂肪分がついていないのは乙女としての悩みどころである。


「くっそーっ、体重の増えにくいフェアリーだからって調子に乗りおって……アタシだって好き好んでお腹に肉付けてるわけじゃないんだからね!」


「それ本気で言ってる……?」


 割とマジなトーンで寧音に呆れられる。


 そりゃあ、普段からあの食欲旺盛っぷりを見せつけられたら、何か目的があって体重を増やしているようにしか見えないだろう。


「てかさー、そんだけブクブク太ってんだったら、駆君見向きもしなくなるんじゃね? あっ、これあーしの不戦勝だわ、ラッキー!」


 あはははは、と笑ってのける寧音のこの言葉は、魅美にかなり刺さった。


 が、その背後で魅美程でもないが流れ弾をくらった女子が一人。




(どうしよう……私、かなりふとっ……大きい……)


 縦方向にビッグサイズの女子、桃である。


 彼女の場合、体格的に仕方がない……というよりも、種族的には十分標準体型である。


 本人の「運動はあまり得意ではない」という主張通りに引き締まっているとは言えない体だが、210㎝もあったらそのくらいはないと、というようなサイズ感である。


 また、バストサイズも魅美よりも大きいため、体のバランス的にも多少他の部位にも肉がついていないと逆に不安になるくらいだ。




「何を遊んでらっしゃいますの。魅美、早いとこ張り手でも突っ張りでもどすこい千本桜でもいいから寧音を黙らせて差し上げなさい」


 当の昔に着替えを終えた莉々嬢がジト目で両者を睨む。


 以前にも触れたことがあるが、こちらの完璧お嬢様はどこぞの一般庶民デブとは違い、バストサイズこそ引けを取るものの、その他は完璧に引き締まった、実にシェイプアップされたボディを誇っている。


「何よ『どすこい千本桜』って! もぉーっ、莉々まで馬鹿にして! アタシお相撲さんじゃないもん!」


 悔しさのあまり魅美は地団太を踏んだ。


「四股踏み?」


「四股じゃない!!!!!」


 決まり手、はたき込み。


 叩き込んで、木崎山の勝ち。

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サキュバスですが、大好きな幼馴染を奪われそうで泣きたい お仕事中の情シス @SE_Shigoto_Shinagara

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