少年と少女が静かに紡ぐ、『特別な夏の日々』の出来事

 健やかな空気に満ちた、とても素敵な小説でした。

 夏休み、高校生の透花は一人の幼い少年と出会う。龍巳という名の少年と共に、以後は二人きりの『絵画教室』を行うことにする。
 透花が龍巳に絵を教えてあげるという、ふんわりとしたやり取りが描き出されます。
 幼い少年と、『ちょっとだけお姉さん』な少女。その二人が夏休みに毎日一緒に過ごし、ただ絵を描く時間を送る。

 まさに、『特別な夏の日々』という、爽やかな雰囲気に満ちた作品です。

 そんな風に、青春小説としても最良な作品ではあります。
 ですが、この作品はそれだけでは終わりません。

 読み進めるごとに、作中には『ある秘密』が隠されていることがわかります。
 そこから一変し、明らかにされて行くもの。そこからのシークエンスがとても見事でした。

 青春小説としても一級品ながら、その後の意外性まで用意されている。とても贅沢な一作でした。
 ラストの締めくくりもとても綺麗で、とても良いものを読んだ、としみじみと満足できました。