まるでジグソーパズルのように読んでいると少しずつ作品の全体像が見えてきて、最後にキッチリと華麗な着地を決めてくれる芸術点高めの作品です。
ピースがはまる為に真相が見えてくるので、話はオチ自体は途中で気付くかもしれません。しかし、それで良いのです。それは作者さまの想定通りなのですから。大切なのは、そのオチでこの作品が何を描きたいのか、それなのです。
私は主人公の苦労を物ともしない真摯さに心を打たれました。
美術部の雰囲気やデッサンのやり方など、専門的な知識の造詣も深く、最初から最後まで一切隙のない丁寧な仕事だと感じました。
ミステリーや恋愛ものが好きであるならば、是非!
健やかな空気に満ちた、とても素敵な小説でした。
夏休み、高校生の透花は一人の幼い少年と出会う。龍巳という名の少年と共に、以後は二人きりの『絵画教室』を行うことにする。
透花が龍巳に絵を教えてあげるという、ふんわりとしたやり取りが描き出されます。
幼い少年と、『ちょっとだけお姉さん』な少女。その二人が夏休みに毎日一緒に過ごし、ただ絵を描く時間を送る。
まさに、『特別な夏の日々』という、爽やかな雰囲気に満ちた作品です。
そんな風に、青春小説としても最良な作品ではあります。
ですが、この作品はそれだけでは終わりません。
読み進めるごとに、作中には『ある秘密』が隠されていることがわかります。
そこから一変し、明らかにされて行くもの。そこからのシークエンスがとても見事でした。
青春小説としても一級品ながら、その後の意外性まで用意されている。とても贅沢な一作でした。
ラストの締めくくりもとても綺麗で、とても良いものを読んだ、としみじみと満足できました。