第4話「よっちゃん、浅草を満喫する」
訳も分からず、逃げ惑うよっちゃんと女の子。電車を乗り継ぎ、気がつけば浅草に降り立っていた。
二人の見た目からして、年頃は近いだろうか。ワイルドな少年と気品あふれる少女。とりあえず、自己紹介をば。
「大丈夫け?疲れとらんか?俺はライモン。皆からは、よっちゃんと呼ばれとるわ」
「ええ、お気遣いありがとう。こう見えても体力には自信があるのよ。私はリナ。きゅうしゅ…いやいや…」
「ん?」
のどまで出かかった言葉を飲み込むリナ。よっちゃんはこう見えても気遣いができる。きっと言いたくない…知られたくない「何か」だったのだろう。追及はしなかった。
「あなたも元気そうね。どこの子?」
「俺は石川の…」
「石川?どこそれ?」
そこでよっちゃんはエバタさんの言葉を思い出した。
『いい?よっちゃん?出身地を聞かれたら、石川…ましてや能登なんて言っちゃだめだからね?知名度は金沢が一番だから。今、能登はデリケートなのよ』
よっちゃんは慌てて言い直す。
「ああ、金沢金沢!!新幹線で今日やって来たんや」
「へえ!!最近、よくテレビに出てるね?でも金沢って確か…」
リナは思い当たる節があった。
「能登でお正月に大地震がったのよね?お互い大変だったわね」
能登という単語ににドキッとするよっちゃん。だが、
「お互い?」
「うん。私、熊本から来たの。熊本にも大きな地震があったから、気持ちわかるのよ」
ぽかんとするよっちゃん。それもそのはず、テレビはおろか、ラジオや新聞までも両親の教育方針で触れてこなかった。そんな現代文化から隔離された彼が、浅草にいるのは奇跡だ。
「しっかし、暑いわね…。ねえ、せっかく撒いたんだし、浅草観光しない?ねえねえ!!貸し浴衣屋があるよ!!」
「わっとっと!!」
よっちゃんも大概、おのぼりさんだがこの子はさらに輪をかけたおのぼりさん。何故か嬉しそうだ。生き生きとしている。
「いらっしゃいまし。あらま、可愛いお客さん。あなたたち、親御さんはついていないのかしら?」
貸衣装屋の店員さんが、子供だけの来客に戸惑っている。だがリナはたじろがない。必殺の武器があった。
「これで」
「ぶ…ブラックカード!?」
よっちゃんにしてみれば訳が分からんがこの娘、相当のお嬢様である。こうして着付けを始めた二人。だが、店員さんの手を借りても、リナは苦戦している。
ここで、意外な才能を見せたのはよっちゃんだった。リナを優しくエスコートし、着付けを完璧にこなした。
「へえ…よっちゃん、凄いのね!!見直したわ」
「はは、じっちゃんばあちゃんに仕込まれたのが役に立ったんや。店員さん、浅草のおススメって何ですか?」
「まずは浅草寺ね。王道よ」
貸衣装屋を後にした二人は、人込みを書き分け二人は浅草寺に辿り着いた。雷門は写真通り。圧巻だった。
「雷門かぁ…。これは観れて正解だったわね。あ。よっちゃんもライモンだったね。何か由来があるの?」
「さてはて…。おっ父のことはあまり知らないんだ。いつも家にいなかったから…」
「あ…ごめん…聞いちゃマズい類だったかしら…」
恐縮しているリナ。それが意味が分からないよっちゃん。
「ん?仕事で日本中を回っとるんよ。どうかした?」
「あ。そうなんだ」
仲見世通りで買い物をし、雷おこしの手作り体験や、人力車も。二人は現状を忘れ、天然の観光デートを満喫していた。
そして辿り着いたのは東京スカイツリー。本日の浅草観光の目玉である。その迫力に興奮するリナ。しかし、よっちゃんはどことなく元気がない。外のベンチで一休みする。
「よっちゃん…大丈夫?」
「あ、うん…何か力が抜けるだけ」
「暑さで熱中症かな…心配だわ」
この体調不良にはちゃんと理由があった。東京スカイツリー。表の顔は電波塔。しかし裏の顔は、妖怪除けの結界の主軸だった。近年、見なくなった妖怪たち。それはこの塔の力だった。
よっちゃんは親譲りの強者の妖怪である。だが、ここまでスカイツリーに近づいてしまうと、モロに影響を受けてしまう。
その時だった!!
物陰から4、5人の男たちが駆け寄ってくる。油断したよっちゃん。男たちはリナを担ぎ上げると、側に止めていたバンに乗り、走り去った。先ほどのマックの輩だ。
「り…リナ…」
意識が朦朧とするよっちゃん。そこに、連中を追いかけてきた関東妖怪協同組合の長が、駆けつける。
「大丈夫か、しっかりしろよっちゃん!!」
慌てて、スカイツリーの結界の外を目指す二人。奴らは何者で、狙いは一体何なのか…。
◇ ◆ ◇ ◇ ◆ ◇ ◇ ◆ ◇ ◇ ◆ ◇
リナは拘束され猿ぐつわをされている。リナはこの男どもの正体と目的を知っていた。営利目的の誘拐に見せかけて、狙いは他の所にある。こいつらは九州妖怪連合の反乱分子だ。
「おい…本当に上手くいくんだろうな…?」
「はは、任せておけ、安い仕事よ」
…そう。リナは人間だが、熊本の親御さんは九州妖怪連合の大幹部だった。孤児だったリナを拾い我が子のように育ててきた。
(こいつらの目的は…パパたちを仲違いさせることね…!!)
「まずはこの娘を亡き者にしたのが、関東妖怪協同組合の手によるものと偽装する。そうすれば後は、九州妖怪連合との対立が起こる。この火種が日本の妖怪社会をねじれさせるのさ」
これを計画したのは、妖怪ではない。九州の大企業の御曹司、オークラのものだった。震災の復興に尽力している妖怪の方がよほど善人に思える。
「それに乗じて戦争ビジネスを始めるのか。…怖いな人間は」
「ふふふ、協力感謝するよ」
◇ ◆ ◇ ◇ ◆ ◇ ◇ ◆ ◇ ◇ ◆ ◇
しばらくして、よっちゃんは息を吹き返す。
「大丈夫か、よっちゃん!!とりあえずこれを飲め」
「これ…は…」
「霊験あらたかな滝の水だ。神聖な力が込められてる」
水を含むと、よっちゃんの意識が完全に戻る。自分の失態を嘆くより、すでに行動に移していた。
「卑劣な策を練りやがって…関東妖怪協同組合の名に懸けて、総力をかけてでも阻止してやる!!」
「待ってろよ、リナ!!俺が必ず助けるからな!!」
飛び出して行こうとするよっちゃん。しかし、
「…え…と、で。どこに行けば…」
「それは私に任せて!!」
「その声は…!!」
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『新作短編』妖怪のよっちゃん、渋谷へ行く はた @HAtA99
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