第3話「よっちゃん、チーズバーガーを食べる」
-前回のあらすじ-
能登の復興の協力のため、関東の妖怪に協力を依頼するため、長のサガミハラ氏に協力を漕ぎ着けた。こうしてよっちゃんのお使いは終了するはずだったが、手続きは予想以上に多かった。
それはエバタさんが引き継ぎ、長に連れられ、東京観光に繰り出した。渋谷のスクランブル交差点にて、よっちゃんは東京の洗礼を受ける。だが、それは鎖国状態だった長も同じだった。
◇ ◆ ◇ ◇ ◆ ◇ ◇ ◆ ◇ ◇ ◆ ◇
「…なんやねん、この人の数。能登…いや、金沢の比じゃないやん…これはどういう現象やねん…エバタさんの言う通りや。気を抜いたら、都では死ぬて、マジで」
東京の恐ろしさを実感するよっちゃん。渋谷のスクランブル交差点は快晴、気温はとにかく暑い。だが、気温に関しては石川も負けていない。この近年の日本の異常気象は何なんだ。
「とりまーケンイチと◎×TSおぼKこま」
「!?」
そんな中、東京人の会話が聞こえてくる。
「だからーレベチOPS級いPまんじRO」
方言とかそういうレベルではなく、言葉が全く理解できないよっちゃん。時代によっては若者言葉の奇怪さは、地方民を置いてけぼりにしている。いかんよ、ホントに。
「な、何語やの!?怖っ、東京めちゃ怖っ!!」
だんだんと、都会に恐怖心を覚えるよっちゃん。関東妖怪協同組合の長が一緒にいてくれて本当に良かった。…だが。
「長さん、これからどうするんですか?…長さん?」
長の表情がものの見事に引きつっているのが分かる。
(やべぇ…俺も何、喋ってるか分かんねぇ…。ここ数年、外出てなかったからな…。東京の進化は早ぇな…)
ここ十年はテレビはおろか、新聞も取っていなかった関東妖怪協同組合の長。その情報の疎さは、仕方のないものだろう。
「…長?」
「とりあえず、日陰に入ろう。冷たいものでも飲もうや」
「…僕が言うのもなんやけど、お金はあるんですか?」
「ふふー。部下のイワシミズに、お小遣い貰ったからな」
「…自尊心は無いんですか?」
何でもかんでも部下任せ。よっちゃんほどの子供でも、流石に不安が募る。こうして田舎者少年と、文化の化石の大人はとりあえずマクダナルドに入った。そこで二人は同じ言葉をもらす。
『あー…涼しー…』
冷房という文明の力。これはもう妖怪の力よりも尊いかもしれない。科学との共存も視野に入れねば。
「じゃあ俺は注文してくるから、よっちゃんは席を確保してくれ。チーズバーガーとポテトとコーラでいいか?」
「ちー…ずばー…がー?」
「ふ。勝った」
ド田舎の子供に勝った大人。勝ったという認識を持った時点で、これはある意味、敗北である。
◇ ◆ ◇ ◇ ◆ ◇ ◇ ◆ ◇ ◇ ◆ ◇
「はぁ…はぁ…どうやら撒いた様ね」
その少女は追われていた。木を隠すのなら森の中。人を隠すのなら人込みの中。そういう点では、スクランブル交差点はうってつけだ。暑い中、逃げ回って意識がもうろうとしている。
耐え切れなかった少女は、マクダナルドに入って涼を取る。フラフラになりながらも、何も注文しないわけにはいかない。
「アイスコーヒー、Sで」
子供ながらにアイスコーヒーを頼むおませな少女に、横で並んでいた長は正直、感心していた。まあ、それだけだ。長は二人分のチーズバーガーとポテトとコーラを受け取り席に着いた。
「これがちーずばーがー、ゆうんかぁ…」
初めて見る食べ物。よっちゃんは興味津々だが、この歳でチーズバーガーも知らない疎さは、正直心配だ。
「…教育方針に口をはさむのもあれだが、親御さんだけから影響を受けるんじゃなく、自分から率先して学ばないと」
「…長さんはウチのとーちゃん、かーちゃんに逆らえるんけ?」
「…ゴメン。無理だわ。あっちは位は神様だからなぁ…」
長と、よっちゃんの両親は長い付き合いがある。友好関係ではあるが、位と力はよっちゃんの両親の方が高い。
「ま、ともかく腹ごしらえするか。喉が渇いてなぁ」
「…これ、美味いんけ?」
「マックはどこでも、そう変わらんよ。チェーン店の強みだな」
「それじゃ…」
『いただきま…?』
その気配にいち早く気づいたのは流石、腐っても妖怪の長。激しい勢いで、ガラスを突き破って入ってきた黒塗りの車を、チーズバーガーを載せたトレイを片手に、足で受け止めていた。
「ななな、なんやの!?」
よっちゃんは突然の出来事に、反応が遅れる。妖怪の神の子といえど、子供にはまだ早いか?だが、ガラスの破片は綺麗にかわしている。二人の神通力のおかげで、怪我人は出ていない。
「く…何だ、この男!?」
「お嬢様は…いた!!あそこに並んでいるぞ!!」
黒服に身を包んだ、車内の男たち。彼らの狙いは先ほどアイスコーヒーを頼んだ、あの少女だ。それを聞いた長は、
「よっちゃーん。こいつらは何とかするから、その子を連れて安全な場所に行くんだ。これは重大任務だぞ?」
「でも、何で?見知らん人らやよ?知らん人には近づくな、て」
よっちゃんの言葉はもっともだ。だが、それに匹敵する大事なことがある。長はそれを教えてくれた。
「…天は男の子に、女の子を護るために力を与えたんだ。それが分からん君じゃあるまい?」
「…うん」
「行け!!」
「あ…ちょ…」
よっちゃんは少女の手を掴み、店の外へと脱出した。
「ち…畜生!!このまま逃げられたら…」
「この男…何者だ?」
「運が無かったなー、三下クンたち。俺の異名を知らないな?」
「はあ!?」
「貧・乏・神」
◇ ◆ ◇ ◇ ◆ ◇ ◇ ◆ ◇ ◇ ◆ ◇
「はぁ…はぁ…はぁ…ちょ、ちょっと!!あんた誰!?何なの!?」
「いや、成り行きで…迷惑やった?」
「…ううん、ありがと」
素直に礼を言える、節度をわきまえた少女。よく見ると、身なりは機能的かつ、合理的。お洒落なポイントも抑えている。いいとこのお嬢様と言ったところか?
「…さーて、巻き込んで悪いけどこれから…」
「ちょっと待って。これを食べてから…」
そう言うと、よっちゃんは先ほど、店舗で食べられなかったチーズバーガーを口に運ぶ。
「…これがちーずばーがー…のどにつまるやんね」
そう言うと、コーラで流し込む。
「この黒い液体、美味ッ!!」
暑い日差しの中で、冷えたコーラの味は格別だったらしい。これぞ都会の味だと認識した。…能登にもマックはあるのだが…。
チーズバーガーVSコーラ。夏の暑さでコーラの勝ち。
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