第8話 鍛錬と言う名の試験
ゴウは、『家出魔人』討伐を無事に終え、序盤にしてレベル65という圧倒的なステータスを持った。
「さあ、次のステップに進むための準備が整ったぞ」
ゴウは、異世界に転生してから何度も『死に戻り』スキルを駆使して、準備は着実に成長は一気に、効率的にレベルアップを重ねてきた。そして、今、ついにメインクエストの第一話『鍛錬』を受けクエストを進める。
第一話『鍛錬』に臨むゴウは、すでにゲーム内の最強キャラクターに近い存在となっている。もちろん、圧倒的なレベル差で余裕をもって易々と相手を粉砕出来るだろうが、ここで重要なのは、それではない。ゴウにとって大事なのは、現実であるこの世界でゲーム内で強制的に進んでいた出来事が、『変化するのか?』という事である。要するに、ゲーム序盤にレベルを上げても、絶対勝てない敵を現実世界なら倒せるのではないか?そして、シナリオ進行が変化するのでは?と期待しているのである。
ゴウは期待を胸にメインクエストを進行させるため、『鍛錬』を受けようと、販売所に行った。
「お待ちください、ゴウ殿。もしお時間があるのであれば、ぜひ当教団の道場で鍛錬を受けていきませんか?」
すると、当然のように前回聞いたセリフが、教団員の口から繰り返された。ゴウは満を持して色よい返事を返した。
「はい、いいですよ。時間はありますから、鍛錬を受けます」
今、ここで『クイント戦記』のメインクエストがスタートした。
教団員に導かれ、教団道場に足を踏み入れたゴウは、その意外な広さに少し驚きながらも、すぐに自分の目的を思い出し注意深く自分の鍛錬相手を探す。試験官となる教団の戦士たちは、普通の冒険者には手強い相手ではあるが、ゴウは裏ボス『家出魔人』を倒した男。教団の戦士など最初から敵ではない。しかも、ゲーム上復活しないので関係ない。探しているのは倒しても復活するあの女だけである。
ゴウが、教団本部の道場広間の奥を見ると、数名の教団戦士が待機していた。その中に、ゲーム進行上の都合で倒しても復活し、ゴウが毎日顔を合わせるあの女マリアがいた。
「アラ? ゴウ坊ちゃん珍しいですね? 教団の『鍛錬』試験を受けるのですか? いい心がけです。未来の勇者たるもの鍛錬を怠ってはいけませんからね」
いつものメイド服とは違い、教団戦士のあかしである白の僧侶服に身を包んだマリアは、印象がガラッと変わり、強そうな戦士に見えた。実に堂々とした姿勢で立っている。
「さて、ゴウ坊ちゃんが、ここにやって来たということは勇者認定試験を兼ねるということですね。いいでしょう!みんな!祭壇前に集まって!」
マリアは教団の戦士たちを、道場正面の祭壇前に呼び集めた。
******
マリアは道場中央で待つゴウの対戦相手に3人の戦士を選んだ。
「え?あんな子供相手に我々3人同時に戦うのですか?」
リーダー格の戦士が、不満の意思を示した。その人物の名前はアダムと言い、この鍛錬の試験官を長年務めている強者だった。マリアはアダムにその理由を話す。
「アダム、ゴウ坊ちゃんを舐めちゃいけないわ。子供だけどレベル10以上になってるハズ。スライム相手のレベルアップを禁止してからも、なにやらコソコソとやってたから、すでにレベル15ぐらいにはなってるかもね?とにかく坊ちゃんが勇者認定されないように打ち負かして。3人同時にかかれば確実でしょ?」
「もちろん打ち負かすつもりですが、さすがに3人同時はちょっと……」
子供相手の1対3を渋るアダム。マリアはそれならばと条件を譲歩した。
「わかった。なら一人ずつ戦ってもいいわよ。ただし、アダム以外のレベル10前後の2人は矢継ぎ早に出て戦うこと。そうすれば、坊ちゃんの疲労が回復せず、アダムでちょうどいい具合に負けるはずだから」
「まあ、それならば……わかりました。やります」
マリアの指示に、なんとか納得しゴウの方を振り向いたアダムたち。代表してアダムがゴウに声をかける。
「お前がゴウだな? マリア教官から話は聞いた。教官の護衛対象だからと言って手加減はしないぞ?」
アダムはゴウをじっと見つめ、低い声で言った。ゴウは、他の戦士や教団員たちからの視線も受け止める。ゴウの強さに対しての疑いが、その視線からありありと感じられた。
「はい、わかっています」
ゴウは少しだけ気を引き締め、答えた。
「よし、試験は厳しいぞ、しっかり戦え」
アダムは厳しい顔つきで言葉を投げかけると、控えていた教団員に合図を出した。ゴウは試験用の木製メイスをを渡される。
(今の自分の力なら、間違いなく圧倒できるはずだ)
ゴウは気持ちを落ち着かせ鍛錬試合に臨んだ。最初に立ち向かうべき相手は、アダムではなく、他の教団の戦士だった。彼はおそらくゴウの力量を見極めるために、選ばれたのだろう。ゴウは、その戦士に対して静かに構えをとる。
相手は身のこなしが素早そうな細身の戦士であったが、その戦い方についてゴウは一切考えず、直感でいこうと決めていた。
「始め!」
アダムの号令と共にゴウは、素早く相手の懐に飛び込んだ。相手はゴウを見失い動きを止める。それと同時にゴウは相手の腹に突きを入れた。
ズドンッ!
相手は吹っ飛び道場の壁に激突した。そして、『うっ』と呻くと壁にもたれたまま動かなくなった。
「なっ?!」
「!!!」
「そ、それまで!」
マリアの顔が引きつり、控えの戦士は声も出ない。アダムは顔色を変えてすぐさま試合を止めた。救護の教団員が壁際の戦士を運び出す。ゴウは相手をわずか一撃で倒してしまった。やはり、ゲームクリアできる実力のレベル65には到底及ばない。戦闘の駆け引きなど皆無である。
「次!」
次の戦士が立ち上がった。彼は前の戦士と違って筋骨隆々の体つきで、非常に力が強そうに見えた。しかし、またしてもゴウは先程と同様に試合開始と同時に相手を突き飛ばし倒してしまう。相手の攻撃を見極め、攻撃を避けるなどという技術などいらぬと言わんばかりに、ただ、真っすぐに突っ込んで相手を圧倒した。
このときゴウは、この戦闘経験を積み重ねることができるこの現実を楽しんでいた。瞬殺であってもそれは、現実に体感できるのはゲームでは得られない喜びだということを実感していた。彼は、どんなに弱い敵でも、その一瞬に特有の動きがあり、その動きを学ぶことで更に強くなれるだろうと感じていた。
「くっ!これほどとは……」
ついに、ゴウの前に最後の戦士、そして試験官のリーダーであるアダムが立ちはだかった。アダムはゴウをじっと見つめ、少しの焦りと恐怖の混じった真剣な表情を浮かべた。
「お前が強い事は良くわかった。だが、もう2回も見た。俺は同じ手は食わない。行くぞ!」
アダムは先手を取りゴウに突っ込んだ。ゴウは素早く反応し、攻撃を避けると同時に素早く上段からメイスを振り下ろす。その攻撃をアダムは何とか木製メイスで受けたのだが―――
ボキィンッ!
その木製メイスは折れ、アダムは大ダメージと共に壁まで吹っ飛ばされた。
「ぐあっ! ううっ、そんな……俺が一撃さえ当てられないなんて……」
アダムは教団内でマリアに次ぐ強さを誇っていたが、ゴウには歯が立たなかった。アダムはそのまま崩れ落ち、救護員に運び出される。ゴウは退場するアダムを見送った後、マリアに向かって振り向き、挑戦的な笑みを浮かべた。
それを見て自分の額に手をやり、信じられないと首を振った後、マリアが顔をを上げる。
「坊ちゃん、一体いくつまでレベルを上げたんですか?いや、試合前に聞くのは野暮ですね。いいでしょう、私が大人の強さを存分に教えて差し上げます」
マリアは、厳しい目つきで武器を選び、丈夫そうな一番大きい木製メイスを手に取ると、ゴウが今まで見たことない真剣な表情で、道場中央に進み出たのだった。
次の更新予定
2025年1月10日 09:00
目指せレベルカンスト!~こだわりレベルアップ厨の欲望~ 法行与多 @Noriyukiyoda1212
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