第7話 歓喜の連続音
ゴウはベッドで目を覚ました。朝の薄明かりが窓から差し込み、眠い目をこすりながら、まだ夢の中にいるような感覚に囚われていたが、すぐにあることを思い出した。
「くそぉ! また失敗か……」
その言葉がゴウの口をついて出た。目の前に広がる部屋は、彼が千回を超える失敗を自覚してきた場所であり、同時に彼が再び挑戦するための出発点でもあった。彼は裏ボス『家出魔人』への挑戦がまたも失敗に終わり、『死に戻り』のスキルで自室に戻ったことを認識する。
昨日、ゴウは郊外の畑で『家出魔人』との決戦に備えてメイスの習熟度をMAXにした。長い時間を費やしたが必要な討伐準備を整えたゴウは、今日、その成果を試すべく、決戦に挑んだ。
しかし、目標達成は簡単ではない。ゴウは朝から岩山を登り、眠っている『家出魔人』の背後に忍び寄り、攻撃を仕掛けた。しかし、その一撃は何の変化も生まず、すぐ魔人の反撃にあって命を落とし、また、この部屋に戻る羽目になった。なんとこれで1002回目の失敗だ。
「もしかして、『家出魔人』にも『即死無効』の効果がついたのか?」
ゴウは思わずつぶやいた。自分でもその言葉が現実味を帯びているように感じられる。いくら0.1%という低確率でも、ここまで発動しないとなると、やはり何かがおかしいのではないかと感じてくる。ここでゴウは『クイント戦記』の内容を、もう一度思いだす。確かに『即死無効』のスキルは存在しているが、それは『家出魔人』には適用されなかったはずだ。それに、0.1%の確率はやはり低い。単純に1000回に1回しか即死効果が発動されないと考えれば、1000回近く失敗するのは当然かもしれない。
「そうさ、まだ諦めるのは早い。0.1%の低確率だし、1000回ぐらいの連続失敗なんて36%ぐらいの可能性はある」
ゴウは我流の計算式をつかい、連続失敗する確率を確認して自分を慰め、勢いよくベッドから飛び起きた。背中を伸ばし、部屋の中を見渡し、この方法で『家出魔人』には勝てるはずだと強く信じる。
そして、前回と同じように再び岩山を登り挑戦をする。しかし、結果はまたも同じで再びベッドに戻された。ゴウはそれでも自分を信じ、何度も岩山とベッドの間を往復した。目指すは岩山の頂上、その先にいる『家出魔人』の元へ。
試行回数3000回が見えて来たゴウが再び岩山の頂上に到達する。ゴウはそのまま穴に忍び寄り、寝ている『家出魔人』の背後に近づいていった。ゴウは何回も挑戦を繰り返していたが、こればかりは全く慣れない。毎回、背後に忍び寄るその瞬間、ゴウの心臓はドキドキと速い鼓動を打った。
「くっ、2856回目、これで決めてやる!」
その決意とともに、ゴウは再びメイスを振り下ろした。
バシュシュシュンッ!
その瞬間、鮮烈な効果音が響き渡り、『家出魔人』は消え失せた。その瞬間、ゴウは目を見開く。いつもと違う感覚が身体に流れ込んできたからだ。いつもよりメイスが、しっかりと『家出魔人』の体に当たった感触があり、そして、その直後に連続したレベルアップ音が55回響き渡った。それによりゴウは一気にレベル65に到達する。
「やったぜ! 俺の読みは当たってた!」
ゴウが長い間挑戦し続けてきたその先に、ようやく『家出魔人』を倒す瞬間が訪れた。喜びに満ちたガッツポーズが飛び出すのもわかる。ゴウはレベル65に到達した。レベル65ならば『クイント戦記』を余裕クリアできる。このレベル帯なら、教団がいう『大災害』とやらにも立ち向かえるだろう。
「これでしばらくは安心だな」
ゴウは目を輝かせながらつぶやいた。
「ようし! これで先に進める。次は装備を整えて、レベル上げを積極的に行いながらクエストをこなしていくぞ!」
ゴウは腰の革袋を出現した大金貨袋に押し付け、100万
「落ち着け。やっと成功した大幅レベルアップだ。ここで転落して死んでは意味がない」
ゴウはここで冷静になり、ゆっくりと岩山を降り始めた。いつもなら気を抜いてしまいそうになる場面だが、今日は少し違った。慎重に足元を確認しながら、落ち着いて岩山を降りていく。それは、レベルアップとはまた違い、ゴウ自身が成長した証でもあった。
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