指探し_06

「見つかったんですね! さすが探偵さん!」


 奈緒子は上機嫌であった。母に再会できたかのように目には涙を浮かべて指輪との再会を喜んだ。


「ここでひとつ、贈り物がある。信じ難いかもしれないが、君のお母さんがいま隣にいる。お母さんの言葉を君に贈ろう」


 不思議そうな顔をする奈緒子に透悟は優しく語りかけた。




『奈緒子、大きくなったあなたの顔を見られて母はとても嬉しいです。奈緒子にととっておいた振袖が、私の桐箪笥の一番下に入っているから、お祝い事に着るのよ。その指輪もそのままでは落としてしまうから、桐の箱が箪笥のいちばん上に入っているから大人になるまでしまっておいてね。わたしはあなたが大人になるまで生きていられると信じていた。けれどそれは叶わなかった。この無念がいかばかりか、あなたには想像もつかないでしょう。覚えていて、母はいつでもあなたを見ています。お父様もあなたをうんと愛してる。たとえ辛いことがあっても死んだらだめよ。母より長生きすること、わかったわね?』


 声は透悟の低い声であったが、声色は奈緒子の母親のものだった。


「⋯⋯おかあさん⋯⋯おかあさん⋯⋯ありがとう」


 奈緒子はしゃくりあげて泣いていた。年端もいかぬ少女らしい泣きざまであった。






 事務所に一行が帰り着くと、木下と伊藤が待っていた。


「件の指輪は中流階級の旦那が娘にと買っていったそうですが⋯⋯」


「その件だが解決した」


「解決?????」


「ああ、これにて一件落着だ」


「犯人は?」


「言っただろう死人だと」


「でもそれでは辻褄が合わぬとおっしゃっていたのは先生ですぞ」


「自殺にでもしておきなさい、そういうの得意でしょう」


「そんなあ⋯⋯困ります⋯⋯」


 指輪代の二十円が手に入り、ほくほくの透悟のとっては、警部の困りごとなど別段どうでもよかった。そのまま木下と伊藤を帰らせてしまった。






「いいんですか? こんなことして、次に依頼来なくなっても知りませんよ」


 匡佑が洗濯物を畳みながら透悟に話しかけるが、透悟は飴チョコに夢中で聞いていない。その代わりに霧真が答えた。


「いいのさ、特殊な事件しか持ってこないあの人たちだ。また変な事件をもって縋りついてくるさ」


「そうかなあ」


「そうさ。どうせ自殺でかたが付く。死人が犯人だなんて書けないからな」


「⋯⋯でも」


 匡佑が言い淀んだ。


「なんだい?」


「僕の意識の外とはいえ、見知らぬお嬢さんを傷つけてしまいました、傷害罪になりませんか?」


「⋯⋯常石くんを吹っ飛ばした霧真も傷害罪になるんじゃないのか?」


 いきなり透悟が話に入ってきた。意地の悪い笑みを湛えて。


「馬鹿言え」


「⋯⋯常石くんはね、優しすぎるのだよ。だから霊にもつけこまれる」


「僕は冷たくなんてなれないです⋯⋯」


「はあ⋯⋯そんなの知りすぎているくらい知っているさ⋯⋯困ったものだ」


 霧真はなんだかニヤニヤしている。


「それにしても匡佑くんが居なくなった時の透悟の慌てようと言ったら⋯⋯くく⋯⋯愛されてるねえ」


「霧真、一昨日きたまえ」


「私は一昨日もここにいたぞ」





 匡佑はまた始まった幼馴染の言い争いに微笑ましさを感じながら、洗濯物に埋もれている。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

千里眼探偵 茂住透悟の所見 長尾 @920_naga_o

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画