第10話

 「はい、泉名探偵社です」


 「あ、泉名さん、ご無沙汰してます、杉山です」


 杉山という男は全国の神社仏閣を巡るのが趣味という、変わった男だ。オカルト好きな泉名にとっては単なるオタク仲間であった。


 そういえば波城神社について情報を寄越したのもこの男だった。


 「ああ杉山さん、珍しいですね」


 「面白い話があったからね、泉名さんが喜ぶかなって。ほら、あの、この前の旧波城村の波城神社、なんか調べてたよね。


 そこでさぁ、何十年振りに祭儀があるって小耳に挟んでさ、こりゃ面白いって思って行ってきたよ。


 あそこはもう神主が辞めちゃってから荒れ放題だったみたいだけど、後任が見つかったみたいでさ、復活したんだな、いいことだよ」


 「そう…みたいですね」


 「さすが、よく知ってるねえ。相変わらず地獄耳だ」


 「あの、それでその儀式はどう言う──」


 「ああそうそう、なんかさ、前の神主さんなんかもいて、二人で切り盛りしてた。


 つってもさ、前の神主さんなんてもう九十過ぎてそうな爺さんだよ、髪も真っ白、長い髭も真っ白で仙人みたいな爺さんだった。


 それと六十過ぎの、その新しい神主さん、顔は似てなかったから親子じゃなさそうだったなあ。


 その二人がさ、神社の前にちょっとした神楽みたいなの組んで。突貫だったんだろうな。

 ほら、神社の拝殿の前ちょっと広くなってたでしょ。そこに櫓みたいなの建てて祝詞を上げるっていう感じだった。


 それで、ちょっと変わってるのがさ。神主のほうが能面をつけて拝殿にむかって祝詞を上げるっていう。あんまり見たことなかったからまあいいもの見れたよ。


 なんか昔は幼い巫女が能面つけて舞を踊るしきたりだったらしいけど、まあ、あの村にそんな若いのいないだろうしね。今の形に変えたんだろうね」


 「あの、何か変わったことなかったですか…?」


 「うーん、まあ全部変わってるっちゃ変わってるんだけど。そういや結構人が見にきてたな。村の人間全部集まってたんじゃないかな、みんな神妙な顔してて、信心深いもんだよ。


 あ、そういや、祭儀の後半かな。最後にさ。

 祝詞が終わって前の神主が太鼓を鳴らすんだけど、そのとき地面に響くような音が聞こえた。男の叫び声みたいでびっくりしたけど。


 能面をつけた神主が最後の祝詞を上げると静かになった。迫力ある演出だねぇ。


 そういやあそこ、鬼を地下の土豪かなんかに閉じ込めたって伝説があって。

 その鬼を祀ったのが始まりだったはずだから、その演出だな。手が込んでるよ」


 

 最後に神社を訪れた時のこと。

 

 本殿の一面に赤い絨毯が敷かれていた。

 絨毯は濡れて水浸しだ。

 物音は──絨毯の下から聞こえていた。

 

 もしかしたら、絨毯の下には土豪があったのでは?

 

 だとすると──

 

 誰かがそこにいたのでは。

 

 ひとり、行方の分からない男がいる。

 

 

 「来年もやるみたいだから次回見に行ってみるといいよ、そんじゃ、また面白い話あったらよろしくね」


 「はあ……ありがとうございます」

 

 こうして、この度の調査は全て終えることとなった。


 あの後、彼らがどうなったのかは知る由もない。


了。

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怪文書が示すモノ 千猫菜 @senbyo31

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