哲学は青春時代を『無双』できるか!? 新機軸学園ストーリー

 哲学が好きな学生。そんな人物が学生時代に同じクラスにいるとしたら、彼はどんなポジションの人でしょう。
 
 哲学。少々とっつきにくい感じのする学問分野。それについての知識を持っているからと言って、クラスの中心になれるとは想像できません。。
 
 しかし、もしもそんな哲学によって、学園内にある問題をバッサバッサと解決していくことができるとしたら?

 主人公である高校生の安居敦も、多大な哲学好きで、その分野に関しての豊富な知識を有しています。
 本作はそんな敦が哲学の知識を用い、様々な悩みを持つヒロインたちの心を救って行くというストーリーとなっています。

 これは、今までありそうでなかった切り口の作品です。『学園』という場所は、一種独特のルールや感情が蠢く、他の社会とは一線を画する場所。
 そんな学園の中を『哲学』という、本来はマイナーになりそうな特性によって切り開いていく。これは、『外れスキルを活用し、異世界を無双していく話』に通ずる面白さを持っているとも言えます。

 第一部では遠藤絵美という少女に対し、『彼女が幸福な人生を送るにふさわしい』と哲学によって証明し、彼女の心を救おうとする。

 そして第二部においては優木悠永が持っている『罪悪感』と向かい合います。自分自身のせいで母親が死んだと悩む彼女。彼女はその罪悪感から自分は幸せになってはいけないと考えている。そんな彼女のことも哲学によって同じく救って行こうとする。

 作中に出てくる哲学テーマも興味深く、第二部においては有名な『トロッコ問題』や画家のゴーギャンのエピソードなどが紹介されていきます。

 こうしたある種の学術的な知識を活用して人の心を救う話というと、細野不二彦『ギャラリーフェイク』の美術知識や、大河原遁『王様の仕立て屋』の紳士服知識など、漫画作品でも親しまれているジャンルでもあります。
 物語を読む中で知識がつき、ちょっと賢くなることもできる。つまりは人生が豊かになる、そういう類の作品です。

 青春の悩みという馴染みやすい分野に対し、哲学というテーマで挑む本作。読めばきっと、当たり前の日常にちょっと違った光が差してくることでしょう。

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