「ちゃんと守って100年後、僕の元に会いに来てね? 愛しい宝箱ちゃん」
とある青年に"何か"を食べさせられたミミック"ミュウ"。
100年後、彼女はモンスターだけでなく、鉱物や植物などを食べていたが、人間は食べなくなっていた。
彼女はうっかり眠っているうちに、宝箱だと勘違いされてダンジョンから運び出されることに!
シトロネラ・ユズ・リンデンの三人の冒険者と交流することになった彼女は、かつて出会った人間の話を語る。
愛する息子を残してダンジョンで死んだ女性、ギルドを破門された後ドラゴンを倒した英雄、新作を書くためにダンジョンを旅していた劇作家、過去を悔いて罪を償おうとした孤独な青年、皆が好きで皆に悪意を持たれた大切な友人と、そんな友人が好きだった相手…。
人が居なくなる度に味わう感情。喪失と悲しみ。それでも忘れられない温かさ。
いつの間にか宝箱から人の姿を取れていたミュウは、過去の人間に託されたものを届けることに。
そんな中、シトロネラの姉イリスの体調が急変したことで、ミュウは自身に何が起きたのかを知ることになる。
人はぞっとするほど欲望に満ちている。
けれどその中身はほんのちょっとしょっぱくて、そしてとてもあたたかくあまい。そんな宝箱ミミックの物語。
冒頭からもう、主人公の可愛らしさ、強烈な憎めなさに引き込まれました。
主人公はミミック。でも、人間を襲うような悪いミミックではなく、ちょっと気弱でちょっぴりおバカな、とにかく可愛らしい奴です。
何十年も洞窟の中で一人ぼっちだったミミックのミュウでしたが、彼女はある時に冒険者のシトロたちのパーティーと出会います。
とあるきっかけで『人間の女の子』の姿に変わることができたミュウは、シトロたちと共に人間の町で暮らすことになります。
もちろん、元々が宝箱のモンスターだったため、人間の常識は通じません。服を着てない状態でも平気でいるので痴女呼ばわりされたり、人間特有のものの考え方がわからないため、「人間って難しい」と悩まされます。
そんなミュウやシトロたちとの楽しい日常が描かれる本作ですが、それだけでは終わりません。
宝箱の姿として何十年も過ごしていたミュウは、その間にも何人もの人間と出会っています。
シトロの祖先に当たるメリッサ。そしてギルドを追放された冒険者シトラス。
過去に出会った人々の存在は、現在のシトロたちの心にも大きな影響を与えていることがわかる。過去の時代の人々の記憶を持っているミュウの存在は、そんな彼らを自然と動かしていくことにもなります。
ほのぼのとする中に思わぬ壮大な時間の広がりがあり、ミュウの存在が知らず知らずに周りの人々に変化を与えていく。
ハートウォーミングで、それでいてコメディ的な楽しさもある、読み応えのある一作です。