ほのぼの可愛い。けれど壮大なミミックさんの物語

 冒頭からもう、主人公の可愛らしさ、強烈な憎めなさに引き込まれました。

 主人公はミミック。でも、人間を襲うような悪いミミックではなく、ちょっと気弱でちょっぴりおバカな、とにかく可愛らしい奴です。
 何十年も洞窟の中で一人ぼっちだったミミックのミュウでしたが、彼女はある時に冒険者のシトロたちのパーティーと出会います。
 とあるきっかけで『人間の女の子』の姿に変わることができたミュウは、シトロたちと共に人間の町で暮らすことになります。

 もちろん、元々が宝箱のモンスターだったため、人間の常識は通じません。服を着てない状態でも平気でいるので痴女呼ばわりされたり、人間特有のものの考え方がわからないため、「人間って難しい」と悩まされます。

 そんなミュウやシトロたちとの楽しい日常が描かれる本作ですが、それだけでは終わりません。
 宝箱の姿として何十年も過ごしていたミュウは、その間にも何人もの人間と出会っています。
 シトロの祖先に当たるメリッサ。そしてギルドを追放された冒険者シトラス。

 過去に出会った人々の存在は、現在のシトロたちの心にも大きな影響を与えていることがわかる。過去の時代の人々の記憶を持っているミュウの存在は、そんな彼らを自然と動かしていくことにもなります。
 
 ほのぼのとする中に思わぬ壮大な時間の広がりがあり、ミュウの存在が知らず知らずに周りの人々に変化を与えていく。
 ハートウォーミングで、それでいてコメディ的な楽しさもある、読み応えのある一作です。

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