欲望ミミック ~人間は宝箱に詰め込み過ぎる~

雪村灯里

「ぜんぶたべたい」

 おなかが へった。


 とおくから おいしそうな においが した。

 えさが きた!!

 くちの なかに よだれが あふれる。


 もう しっぱい しない。

 ぜったいに たべてやる!


 わたし くちをあけて えものをたべようと

 したをのばした。


 やった なにか つかまえた!

 したを ひきよせて くちのなかに

 いれようとした。

 やっと たべられる


 ―――ガチン!


 あれ? くちが しまらない。


「お腹空が空いているんだね。でも、僕の事は食べないでほしいな。」


 この なきごえは にんげん?

 なにをいっている? 

 ていこう するな…… 

 わたし おなかぺこぺこだ

 おまえを たべさせろ。


 いたい!!

 こいつ なにか さした!

 こいつ こわい!!


 わたしは おどろいて

 つかまえた にんげんを はなした。

 たべたい けど しぬの やだ。


「こんなダンジョンの奥深くじゃモンスターも人も何も来ないだろうに。こんなに弱って哀れだね。これでもお食べ。」


 にんげんが なにか おいしいものを

 くちに いれた 

 もんすたーだ!!

 ちいさいから そのまま のみこんだ

 うまい もっとよこせ。


 たべたい まだまだ たりない。

 もっとたべたい! ぜんぶたべたい!!


「まだ欲しがるのかい? 君は僕に似ているね。ふぅん……周りに人が来た形跡も無い……君はまだ人の肉を味わっていない様だね? ならば、これをお食べ。」


 また なにかが くちの なかに はいった。

 くちを おさえていた ぼうを

 にんげんが はずした。


 ―――バキン!


 なんだろう はじめて たべる あじ。

 かたいけど おいしい。


「うん! いい子だ。吐き出さずによく咬んで食べるんだよ。」


 あまくて……にがい。

 からだが ぽかぽか する。



「……お……い……しい。」


 

 私の なき声を きいて

 ニンゲン が おどろいた。

 まだまだ ほしい わたしは口をひらいた。


「へぇ、こんなにも早く適応するなんて、可能性 “有り” か……。それに、言葉も話せるようになるとは驚きだよ。いいね……では、これを君に託すとしよう。君に知恵を食べさせた、そしてこの記憶と情報をあげよう。ちゃんと守って100年後、僕の元に会いに来てね? 愛しい宝箱ちゃん。」


 そう言って ニンゲンは 私の口に変なものを入れた。

 固い……でも、とても美味しかった。 


 あれ? 体がおかしい。


 熱い……体が焼けるように熱い……

 いやっ いやだ 助けて!


 人間は笑いながら、藻掻もがき苦しむ私を静かに見下ろしている。ねぇ、何を食べさせたの?

 そして、彼は何事もなかったように振り返り、ぶつぶつ言いながら去って行った。


「やっと君を見つけた。絶対に君を逃がさないよ……君は僕の物だ。」


 行かないで……! 待って……助けて……。


 熱にうなされながら、助けを求めるように必死に触手を伸ばすが、届かなかった。そして私はここで意識を失った。


 これが私の原初の記憶。

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