ジャジャーン、新ヘーキ(ど○えもん風)

 「イベルワ、どう?やっぱりカッコイイかな?」


 「ネスト様、どんなお姿をしていても至上の雄でございます」


 「いや、イベルワ、この武器の事よ」


 まるで噛み合っていない連れ添い歴約三桁コンビの俺達は、すぐに降下準備の為に研究エリアへと移動し、準備を進めていた。


 すれ違い通信をブチかます俺の言葉の意味。そう、俺の手元には漆黒に染まるハンドガンが一丁あり、スライドをガチャンと動かしてドヤ顔していたのだ。

 全く自分でも恥ずかしいなどと若干思うが、元の生活ではハンドガンなど握る前に自身の死が迫る生活をしていた俺だ、少々浮足立ってしまうのはご愛嬌という事で。


 技術力の差が凄まじいのだが、やっぱりハンドガンの見た目がカッコイイので要望を出したら僅か数秒で現れた。恐ろしい。


 「ネスト様の美的感覚と安全上の弾薬を考え、こちらの重火器にいたしました」


 銃の全長25cm。軽金属製のセル弾とやらを使用するらしい。メッチャカッコイイ。


 「排莢はあるの?」

 

 「はい。セル弾は形こそ薬莢になっていますが、発砲から目標を完遂したら自動的に塵となりますので技術が外部に漏れることはありません。こちらの中にはナノより細かい自己成長AIが常時入っておりますので、セル弾を生成しますが、リロードアクションを楽しんで頂くことも可能です」


 ⋯⋯やるやんイベルワ。よく俺を理解しているじゃない。


 「弾薬は種類あるの?」


 「勿論でございます。セル弾はバランスに優れた弾薬ですが、パルス弾、プラズマ弾、フェイズショット弾など、様々な種類がナノにリロードする事で命令となり生成されるというような物となっています」


 「至り尽くせりだな」


 「ネスト様の為の銀河でございましょう?」


 「当たり前のように言ってくれるぜ」

 

 

***



 私は何故生まれて来たんだろうか。

 

 神様がいるのだとしたら、こう言いたい。


 "理由を教えて"って。


 私が生まれてこの方どんな悪い事をしたのかを教えて欲しい。


 毎日掃除をして、食事を作って、家畜の世話をして、皆の暴力を受けて。

 何か言おうものなら顔色が変わるこの世界に耐えた。耐え続けた。何故私がこんな目に遭わなければならないのかと思う。


 『おい、ここまで育ててくれた当主様に感謝するんだな!』


 うるさい。裏通りの子供より酷い生活だったけど。

 ⋯⋯何が育ててくれたよ。あなた達がマトモだった時期があったのなら教えて欲しいくらいだけど。


 まぁ、そう言われれば字や言葉を教えてくれただけマシなのかも知れない。高い技術だし、食っていくのには困らない。

 

 「にしても⋯⋯やり方っていうのがあるじゃん」


 私がいるこの場所はヤモの森。

 ────通称死の森だ。


 高ランクの魔物が暴れる最悪の地域であり、人を捨てるには絶好の場所ということだ。

 理由は簡単。優れた冒険者でもここの魔物達には勝てず、すぐに死んでしまい餌となるからだ。


 「引き返すにも限度があるし」

 

 歩いて戻るには距離があり過ぎる。


 死の森は未開拓地域であるとともに、死という単語が付くには理由がある。

 それは、この森の手前までのほとんどが植物など皆無な砂漠が広がっているからだ。


 まぁ何が言いたいかというと、ほとんど生きたまま帰るということが不可能ということ。

  

 とりあえず何か飲み物探しをしないと。朝から何も口にしていないんだから。


 「結局森の中に入るしかないか」


 最悪なこの場所でも、水やその他の食料などはこの森の中にしか無い。私はフラフラな足取りで森の中に入っていく。





 どれくらいの時間が過ぎただろう。

 必死に歩いていくものの、一向に水場は見つからない。


 喉が渇いて仕方ない。

 動かなくなった身体が勝手に停止を指示し近くにある木の根に腰を下ろす。

 キレイな青空が見える中、私は自分の人生の悪かった部分を反省しようと思考を回し始める。


 ない。ないよ。


 人に迷惑をかけないように生きたし、言動も態度も、全く問題はなかったじゃん。


 「⋯⋯⋯⋯じゃあ、なんで」


 世の中は理不尽だ。

 裏通りの友達のリンが言ってた。そんな所いないでこっちに来なよって。だけど逃げられないし、迷惑がかかるから行かないよ。


 そんな私はこの時、近くに数体のモリティアクスに狙われているなんて考える余裕もなかった。


 ────足音が聞こえる。

 意識が曖昧な私の耳に土が擦れたような音。音の量から察するに複数の足音だ。


 「⋯⋯⋯⋯」


 力のない自分の瞳を開けると少し離れたところから、薄い灰色の体毛を生やした猿が見える。

 近寄ってきて輪郭だけだったのが段々とハッキリしてくる。


 表情を見ると見下したように笑ってる。

 小動物かと思っていたのだが、あぁ⋯⋯魔物か。


 モリティアクス。

 確か、死の森に生息している一般的に知られている群れをなす強力な魔物の一種で知能が高く、狡猾で人に懐かないことで有名な魔物だ。


 ──そもそも魔物が人に懐くなんて聞いた事もないけど。


 こう見ると、結構大きいんだなぁ。

 私よりも少し大きい。

 意識が曖昧で、恐怖心は不思議と湧かない。


 多分きっと、なんとなく悟っているからだと思う。

 ここに送られたら死ぬなんて当たり前。

 

 だからかも。


 『キキキッ』


 ノリノリだ。ご飯がなかったのだろうか。私がいなかったらあと数日困ってたのかな。


 嬉しそうに笑い合う4体以上のモリティアクスに両腕を掴まれ、状態を見られる。


 ここで終わりかぁ。もし次あるのだとしたら、普通に生きて普通に死にたい。

 掴む一方のモリティアクスが困ったような吐息を漏らした。どうしたのだろう?


 見上げると、一体が私を抱き抱えている。

 しかしなぜだろう。このモリティアクス、完全に震えている。


 直後、私はかなりの衝撃を受ける。どうやら目線的に、横になっている感じがした。


 お腹を触る。

 そしてそろそろ、私の命も尽きる頃合いだ。

 魔法を放たれてとっくに出血している。


 ────なんて静寂なのだろう。無音の中、私は自分の終わりを悟り、瞳を閉じた。


 次は良い人生⋯⋯なんて言わない。

 普通の人生が歩めますようにと。

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