とりあえず名前何にしよう
僕はどうやら超未来の人間からなんとなく選ばれた記憶らしい。未だにそれが納得できないのだが、納得するしかない。
眠った時間は長く感じたのだが、2日程眠っていたらしい。超未来ではこれでも長いと言われるようだ。
液体カプセルの中に俺は入っていて、意識が戻ると透明な液体に全身浸かっていたのだが、何故か息が吸えるし苦しくない。
どうやらインストールしたのは未来の技術や概念、様々な歴史も含まれているようだ。
起きた時にはまるで最初から覚えていたように記憶していて、自分の身体じゃない感が若干否めなかったのだが、実際人間を辞めている部分もあるのだろう。
『目が覚めたようです』
何か言っている。
言語パックとやらをほとんど詰め込めてあるからか、目の前の宇宙生物みたいな変な生物がこちらを一目見て呟いているのを黙って観察していた。
彼、ジェネシスが作り上げた宇宙生物の一つである一柱。名はイベルワ。
遠くのγ695という星にいた生物と知能を掛け合わせて生まれた再生に特化した部下の一人だ。
「初めまして、我らが神よ」
「俺は神じゃないさ」
そう、彼がイカれている程の超生命体なのであって、俺はそんなに高尚な生き物じゃない。
「いえいえ、我らが神の為にこの母船から星、複数の宇宙があるのですから」
「⋯⋯僕にはまだ想像もつかないような大きい話だが」
「確かに。記憶の対象の情報は記憶しておりますよ。伊東俊平様。2022年に病死してしまった少年でございますね?」
あー。確かそうだったわ。
親友の孝太郎がイジメられていたのを助けていたら、ある日イジメの主犯格の一人がイライラしたのか俺のことを金属バットでヤラれた⋯⋯そんな感じだった気がする。
「かもね」
「素晴らしいです。他人を助けることは素晴らしいことですから。それにしてもこの時代は大変でしたね。計算を始めとした様々な技術が軒並み低レベルな物ですから。個体差も開きっ放しですから」
ペラペラファイルを捲りながらこっちを見て微笑むイベルワ。
「あー。今は違うんだっけ?」
「では簡単なクイズを出しましょう。20×190はいくつでしょう?」
3800。頭の中で浮かび上がった時間は言われてからほぼ同時のことだった。
「私の方で神の肉体情報を変え、脳機能をこの時代と比較すると少し前の後期Ads人の500%以上機能向上させております」
「ご、500?」
「はい。ニューロ学、統合科学により、ヒトの脳機能を極限まで上げる技術を開発し、比較すると数千倍の知能格差があります。現在の神の脳機能は一般の時代と比べるなら万倍に匹敵するレベルだと思います。計算、創造、反射神経などの神経系も全て向上させていますから」
Wow。とんでもない時代だな。
「やっぱりAIとかがあるの?」
「はい。現在自立学習型のAIがデフォルトベースです。様々な業務と計算、量子関係にも使われており、頭の中で念じて頂ければ脳内で神のパーソナルAI起動するはずです」
「えっ?まじで?」
「様々な分野に導入されていますよ?伊藤様には信じられないお話でしたか?」
「まぁ⋯⋯まだそんなレベルのAiはいなかったし」
「現在も進化を続けています。恐ろしいレベルの違いがあるでしょうね」
そりゃヤバイわ。当時もなんかヤバそうなのが出たわみたいな感じだったし。
「一応記憶領域に多少インストールして頂いた物が反映されているといいですが」
「あぁ、分かるものは分かるって感じかな」
「はい。今後お願いしたい事がいくつかあるのですが、聞いていただけますでしょうか?」
「勿論。必要なら言ってよ」
「ありがとうございます」
恭しく頭らしきものを下げるイベルワ。
「というのも、我々の中には伊藤様を歓迎したすぎて用意している物が大量にあります。伊藤様にはそれらを見て頂きたく⋯⋯」
「プレゼントって事?」
嬉しいな。歓迎してくれるのか。てっきり色々言われるもんだと思っていた。
可愛いとか思っちゃうぞそれ。
「主な話はそれだけなのですが、数が数ですから」
「そんなにあるの?」
「⋯⋯はい。ジェネシス様が居られた時は殺風景だった物ですが、伊藤様は様々な願いなどがあると皆が把握しておりますので」
苦笑いで返すしかなかった。
そうだよな。インストールとかがあるなら、俺の記憶や何が欲しいなんかの感情も読めるって事だもんな。
「そっか。なんか恥ずかしい」
「我々は仕えるのみです。それに、ジェネシス様が寂しいと仰られて造られのが、現在居住区に住んでいる様々な生物が集まって暮らしていたりする、種たちです」
「え、居住区があるの?」
「あくまでヒトがジェネシス様と伊藤様のお二人だけであって、遺伝子はそれ以外としかみなされませんので」
彼の話でも遺伝子はは俺と彼の二人だけだったはずだ。
「まだAQSの中ですが、体に不調などはございますか?モニターには反応がありませんが、些細な事でもお伝えください」
「特にない」
むしろ病気の時と比べられないほどのパワーだ。
車椅子生活だったから、普通に歩けるだけで嬉しい。
「では、開放しますので」
プシューと重厚な蓋がゆっくりと開いていくとイベルワの触手?が伸びて俺の体が外に出て綺麗に着地する。
「おぉ、すげぇ⋯⋯」
普通に歩けるし、ジャンプもできる。
感動だ。
「伊藤様?」
「あぁ、ごめん。死ぬ前は車椅子で生活していたからさ、感慨深くて」
「そうでしたか。これからはそのようなレベルの怪我などされても全く問題にならないように手筈を整えますので安心してくださいませ」
イベルワは一言で言うなら闇の紳士だ。
全身真っ黒で顔はない。だけど帽子を被るセンスとにこやかに笑っているように感じる触手を見れば不思議と違和感を感じない。
「ありがと」
気恥ずかしいが、素直に受け取ろう。
「ところで伊藤様」
「ん?」
「お名前は伊藤様とお呼びしてよろしいのですか?何か他にお名前を付けたかったりするものがあれば」
「あぁ〜⋯⋯」
あくまで俺は過去の人間な訳だし。
新しく名前を決めたほうがいいのか?
「名前は新しくした方がいい?」
「伊藤様がお決めになっていただければと」
「ネスト、とか良さそうじゃないか?表で理解している者たちにはネストと名乗り、重要な場所や暗号として伊藤俊平は使うよ」
「畏まりました。それでは全構成員にそのように伝えておきます」
「ありがとう」
無言で暫くイベルワが微動だにしないと思っていたら、突然動き出した。
「ではネスト様、本日はどのように過ごされますか?」
「そうだね。色々見て回るのが先かな?やっぱり知るのが先だと思うし」
ワクワクするものがいっぱいあるだろうから。
「承知しました。では早速見学をしに向かいましょう」
トコトコ扉に向かうと俺もその背中に付いていくのだった。
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