見学

 技術というのは、非常に恐ろしい。


 病室の中でも行き過ぎた科学は魔法と相違ないなんて言っていたのをよく覚えている。


 「すげぇ⋯⋯」


 「ネスト様がお喜びなられているようで何よりです」


 今乗っているのは真っ黒なランボルギーニ。

 どうやら気を遣って俺の時代に合わせた高そうな車を見繕ってくれたみたいだ。ちょーカッケぇ。


 天井は俺が見たいだろうというのを予見してオープン仕様にしてくれている。しかしだな⋯⋯。


 「俺が知ってる車は、こんなに簡単に空に飛ばないし、ビビるくらい速くないんだけど?」


 そう。俺が今ビビっているのはそれだ。

 なんとこの車、ハイブリッドである。


 それだけ聞けば「ふーんそうなんだぁー」で済むのだろうが、ソーラーセイルエンジンというものが搭載されている。


 この母船の大きさはまだ正確に理解していないが、太陽らしきものが輝いている。どうやら一部に取り付けられているソーラパネルが太陽光を吸収して、電力を作っているそうだ。

 更に言えば、核融合炉も車内に入っていて、最初俺は心臓が跳ね上がりそうになった。


 危ないだろう。なんて思っていると「それは昔ならですから」とバッサリだった。


 車と銘打っているが、実際は多目的飛行艇だそうだ。


 速度はマッハ20は軽く出るそうで、空も飛べるし、機能を変えれば潜水艦にもなるそうだ。

 小型宇宙船にもなるようで、説明を受けていた俺は理解できるようになってからというもの、都度都度参りそうだ。


 俺が知ってる世界と全く別次元過ぎて、もはや一周回って分からん。


 そうしてまずは母船の中をとてつもない速度で進みながら説明を受けた。


 この母船は直径約20000km。

 地球まるごと一つより少し大きいくらいだ。

 そしてエリアとしては居住区、農業区、研究区、エネルギー区の4つから出来上がっており、それぞれ大陸レベルの広さで活用しているらしい。


 「あちらに見えますのが、エネルギー区になります」


 「エネルギー区ってあの?」


 「はい。ご覧になりますか?」


 頷くと、車は加速し一瞬でエネルギー区へと到着した。


 「エネルギー区はかなり危険ですのでここから一望するだけにしておいた方が良いかと」


 「そうなの?」


 「ネスト様とジェネシス様のお二人──Ads人の全ての集大成が詰まっております。エネルギーというエネルギーを全てここで生産しています。ネスト様の言語に当たる反物質炉、核融合炉、真空エネルギー源のもとです。見えるあの景色だけで、銀河一つ分のエネルギーをここで生成することができるのです」


 「⋯⋯マジで?銀河?」


 「はい。1000年後のAds人の皆さまが他の銀河や外宇宙と言った概念を発見し、様々な惑星を利用したクリーンなエネルギーで自給自足出来るようになったものです。あれらだけで途方もない権力を手にしているようなものです。比較すれば、私達が人間であれば、当時の皆さまは砂以下です」


 スケールが違い過ぎて生唾をのむしかない。

 ヤバすぎだろこれ。


 「Ads人の発展は現在も続いています。このエネルギーを外宇宙で働いている様々な同胞たちに送り届け、安全と力を手にしたのです。どうですか?これが未来のAds人です」


 「これを⋯⋯言葉にできないよしかも、多分だけど、ここ以外もあるんだよね?」


 「勿論です。ここは本拠地母船ですから、主に生産よりも防衛と兵器が主です。生産だけの場所も他にも1000を超えるレベルで用意しています」


 「1000!?」


 「宇宙を統一した文明Ads人です。それくらい当然でありましょう。ネスト様とジェネシス様なんですから」


 毅然と溢れるイベルワの笑みは、顔がないのに俺にもその自信が伝わってくる。

 

 「他の場所も行きたい」


 「お言葉のままに」


 綺麗に直角に曲がるイベルワと共に、俺は残りの区画にも遊びに行った。




***



 それから一通り巡った。


 居住区、研究区、農業区。

 どれも一言では表せないほどの規模と質で頭がパンクしそうだったが、今の俺にはそんな事にはならないようだ。能力が高くなりすぎても困る事はあると学んだ。


 「凄かったな」


 「全てはネスト様の為ですから」


 「皆のものだろう」


 二人で歩いている今いる場所⋯⋯ここは最初に俺が起きた場所──。


 どうやらここが一つの区になっているらしい。

 Ads区と呼ばれている。


 Ads人のみが入れる場所で、それ以外の遺伝子は強制的に入れないようになっているとの事で、他にはイベルワと数名の幹部のみがここに出入りできるが、Ads人のみしか入れない場所がほとんどだと言う。


 「玉座の間なんて、そんな大層な名前をつけなくても⋯⋯と最初なら言えたが、今はそうも言ってられなそうだ」


 「当然でございますよ?Ads人は絶対。ここではAds人のお二人のみの命令でしか動かないものがほとんどですから」


 多少は記憶を思い起こせる。

 この自立型AIと、宇宙生物を繁栄させて働かせたりしているこの母船──ライベルロザリオは、全てジェネシス自らが操作させて生命を創り上げた場所であり、選ばれた者のみがこの母船内で過ごす事ができるという場所であることを。


 「責任重大だな」


 「ジェネシス様は貴方様に全てを託して永眠されました。今は全勢力を賭けてでも、貴方様の願いを叶える為に存在しています」


 「嬉しいことを言ってくれるよ。俺の願いなんて大したことじゃないさ」


 「はい。これから長い人生でしょう」


 「そっか⋯⋯俺、超人みたいになっちゃったんだもんね」


 記憶にあるAds人は確か最低でも2000年は生きると言われている。機能低下は1000を過ぎてからだというが、新しい肉体を用意してそちらに移行すればまた元通り。まさに無敵な訳だ。


 「ジェネシス様は孤独だったと仰っていました。そのせいか、私達との会話のやり取りの仕方がわからず、結局孤独なままにさせてしまいました」


 「まぁ仕方ないさ」


 人間ってのは意外と面倒くさい生き物だしな。


 「現在はネスト様も肉体でしょうから、現状の空腹お加減はいかがですか?」


 「あー、結構減ってるかも」


 「事前にジェネシス様の方から仰せつかっておりましたので、ネスト様に必要なものを全て用意させております」


 「お〜それは嬉しい」


 どんなものが出るのか、楽しみだ。

 

 「では早速、こちらから行きましょう」


 イベルワはそう言うと俺を抱きかかえ、片手で持っている小型のスイッチのような物を押す。


 「⋯⋯うえっ!?」


 何?早く言ってよ!そんな移動手段あったんかい!!


 気付けば一瞬で俺とイベルワはこの場から消えた。

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