うっはうはや

 「イベルワ!これ面白い!」


 「左様ですか。ご満足いただけて何よりでございます」


 それから約2時間。⋯⋯いや、正確には違う。

 この空間での体感時間二時間程度だったのだが、実際は1週間以上が経過していたらしい。


 面白い事に、この場所にはDVR空間というものが別にあった。


 俺の時代ではゴーグルなんかをかけていたが、この場所では脳に埋め込まれているチップ越しにVRを楽しめるようだ。

  

 要はあれだ。幽体離脱みたいな感じで仮想空間にそのまま任意で移動できるって事らしい。

 DVRでは意識だけが別空間に存在しているから、時間の進み方すら変わっているのだ。

 

 脳内で意識が飛び上がると様々な機能があったが、とりあえずイベルワの言う通りにやっていく。

 項目的には勉強だからちょっと気分は下がり気味だったのだが。


 『おぉ⋯⋯』


 歴史の授業。だが俺の目には、間違いなくその場にいるような臨場感と肌感すら感じられるようになっていた。


 現在では歴史を使う場合、こうして生で見るようなやり方でVR授業を受ける事ができるらしい。

 

 イベルワ曰く「ジェネシス様がインストールだけで済むのはつまらないから新しく作ったのだそう」と教えてくれた。


 1500年代から少しずつ歴史の動画は始まり、2000年、2100年、2354年と、要所要所で必要な場面で止まっていき、バスガイドのように人型アンドロイドが説明をしてくれる。


 そんな事。続けていたら、あっという間に10時間くらい過ぎてしまったわけだ。




***



 「いやー面白かった」


 「数十人のアンドロイドが大喜びしますよ」


 「伝えておいてくれ。傑作だったと」

 

 どうやら開発の段階で様々なパッケージがクラウド上に保存されているようだ。

 

 ここで言うパッケージとは、様々な分野の人間たちが歩んだ人生、スキル、感情⋯⋯細かく細分化した上でゲームカセットのようにパッケージ化して必要な情報と肉体感覚を植え付ける事ができる。


 俺がインストールしたのも言語パックという数えられないくらいの人間たちから得た言語を分かりやすく、そして喋れるようにまで仕上げてくれる素晴らしい産物だ。


 その中で、アンドロイドたちへの人権問題として、感情パッケージを入れることになったそうだ。

 

 だから彼らには感情があり、居住区では様々なアンドロイドたちと異星人達がたくさん住んでいるとの事だ。


 「はぇ〜数十人で済むんだな。あれほどのレベルでも」


 「計算能力と制御力が違いますから」


 「それもそうか」


 全てのAIとアンドロイドは量子技術が使えて当たり前。様々な能力をインストールしてすぐに働けるようになっているため、数十人単位でも余裕なんだそうだ。

 ⋯⋯冷静に考えればそうなのだが、まだまだ追いつけない。


 「ネスト様、お食事はどうされますか?」


 「んーまだいいかな。とりあえずドライブしようよ」


 「よろしいのですか?」


 「ん?何が?」


 「連れて行ってくださるのですか?」


 「何言ってんだよ。勿論じゃないか」


 「至福の喜びでございます!」


 そんな大袈裟な。




***


 

 それから数時間程綺麗なこの母船の空を旅をしていると。


 「ネスト様」


 「どうしたー?」


 「ネスト様のお好みの女性はいらっしゃいますか?」


 「ぶふっ!」


 飲んでいたス〇〇のフラペチーノを吹く。


 「いきなりどうしたんだ!」


 「あっ、申し訳ありません」


 慌てて頭を下げるイベルワを俺も両手で止めさせる。


 「いやいいんだよ。それでお好みって?」


 「実はネスト様が起きる少し前に、とある遺伝子や様々な所を改良して性処理用の女性を複数様々な人種で用意したのですが⋯⋯」


 「いやいやいや待て待て」


 色々ツッコミどころが多すぎるって。


 「遺伝子を改良?」


 「⋯⋯?はい。Ads人と最も類似している人型のarm345という星に存在している生命体でございまして、脳内に人工知能を積んで性処理用として別の場所で働いております」


 「簡単に言うと、人間ではあるけど、頭は人工知能みたいな事?」


 「簡単に言えばそうですね。繁殖させてもよいのですが、それにはネスト様の許可がないと行えません。過去に反逆の例がございますので」


 「そんな事あったんだ」


 「はい。人工知能とAds人は一度もありませんでしたが、管轄の惑星に実験として生み出したアルマ人という戦闘に長けた遺伝子を持つ人類は反逆の狼煙をあげようとしたのですが、残念ながら一人残らず当時のAds人によって全滅させられました」

 

 ヘヴィ〜。怖えよ。

 ⋯⋯てか、そうだよな。逆に言うと、俺以外繁殖しなくていいんだもんな。


 「居住区にいる皆はどうしているの?何百以上創造を繰り返した訳じゃなさそうだし」


 「彼らは簡単に言えば接吻で簡単に産まれるような生き物です。実際は血液の交換ですね。申請が必要であり、居住区には常に監視網という名のセンサーだらけですので、掻い潜り抜けるのは不可能と言っていいでしょう。ここでは、遺伝子至上主義ですから」


 「未来でもそういうのは続くんだね」


 「はい。むしろ必要です」


 「⋯⋯そうなの?」


 「はい。平等となり得る全個体が同じであるならば話が違いますが。シミュレーションでも平等である事が可能なのは全個体が同じ意志と価値観を持っていなければ必ず種は滅ぶと決まっているからです」


 「絶対?」


 「⋯⋯絶対でございます。量子シミュレーションに狂いはありません。何兆回と繰り返しましたから」


 「そっか」


 戦争は無くなるといいと思ってたが、未来でも無理なら仕方ないのかもしれない。


 「至上主義は行きすぎじゃないの?」


 「優劣はございますから、むしろ大きく出た方が良いでしょう。所謂劣等遺伝子というのは、勘違いすることが多いものです。簡単に例えるのでしたら、民衆の中で流行っているものが危険とされているものだとします。もしどうしても止められないのなら──大きく国営した方が利益が上がってむしろプラスに向かうという事です」


 「俺がいた時代では大麻とかあったよ?それもいいの?」


 「むしろそれで自ら擦り減らして消えるのならそれで良いのでは?人の精神とは強制させられて止まるようなものではないはずです」


 確かに。納得したくはないが、正論⋯⋯か。


 「結局はこうした方が大きく種を見た時に優劣を付けたほうが効率が良いのです。それに、Ads人が作り上げた統一という血よりも濃いこの文明を超えることは出来ないでしょうが」


 「そっか」


 「2000年代に生きるネスト様の人格では仕方ないことなのかもしれません。私達からすれば至上の喜びでございますから、それ以外は塵と一緒でございます」


 「塵⋯⋯」


 「はい」


 そこからは割と楽しい話がメインだった。

 色んな話をしたり、星がどうのとか、現在どんな世界が周りにあるのかとか。


 ⋯⋯あ、結局処理は確定事項みたいで、しっかりゴニョゴニョさせてもらいました。下半身って怖いね。


 リクエスト通りの素晴らしい女性でした。ありがとうございます(ヲタク口調)。

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