円卓会議
真っ暗な空間。そこには何があるのかわからないほどの静けさが広がっていたこの場で、突如としてスポットライトが当たる。
細い光に当てられて現れたのは、座席に座るイベルワだ。
「Adsーーメイン統括ユニット⋯⋯イベルワ・アルテマウス」
まるで自己紹介していくかのように斜め向こう側にスポットライトが当たる。
「メイン護衛ユニット⋯⋯レヴァナ・アルテマウス」
「メイン迎撃ユニット⋯⋯グラーヴァ・アルテマウス」
それぞれ対角線上に座っている3名。
イベルワは置いておいて、他2名の容姿も特徴的だ。
レヴァナは透き通るような銀色の鱗に包まれ、背中からは膜状の翼が生えている。目は星のように輝く金色で、見合っただけで身震いがしそうなほどだ。
ちなみに人型である。
グラーヴァは対象的で、ゴーレムっぽい容姿。瞳は鉱石の輝きを放っており、ゴツゴツしている。
「ガテはまだなの?」
「今第2宇宙で防衛中ですよ、グラーヴァ」
レヴァナとグラーヴァの2名が笑いながら質問に答えている。
「他はおそらくまだでしょうから、一先ず会議を始めましょう。グラーヴァ、報告は?」
「問題なく稼働中です。現在43もの星から調査、侵略攻撃の2つを対処中。⋯⋯たった今解決という連絡を受けました」
ネストは知らない話だが、統一後もずっとこの無限にも等しい銀河数個分に広がる資源惑星や実験場として用意している星、それら全てを抱えているのが現状だ。
⋯⋯侵略者たちが現れるのも当然だろう。
その無限大に広がる案件を──たった一人、イベルワの指揮のもと全て対処しているのだ。
ネストがいる母船はあくまで最終ラインでありここ程安全な場所も他にはないが、別の場所にも仮となる母船はいくつも存在している。
艦隊や少し外れた話をすれば幾万以上の船と母船がそれぞれ領域に現在も尚在り続けている。
「そう。詳しいレポートをキューブデータにして送っておいて」
「ユニットグラーヴァ、了解」
「レヴァナは近くだから関係ないでしょうから、現状維持」
「ユニットレヴァナ、了解」
「報告はなさそうね。それじゃあ⋯⋯」
「ちょっと待ってよ」
「何かある?」
早くも締め括ろうとしたイベルワにレヴァナが待ったをかけた。
「新たに君臨する事になったネスト様の話がまだです」
「そうです。君主の話がないのはおかしな話です」
二人をチラ見してから溜息を漏らすイベルワ。
「⋯⋯一体いつから自由意志を尊重しましたか?私が」
「許されているからこのような質問ができるのだ、イベルワ統括」
「そうです。権限上あなたが総括なだけで、知能指数は変わらないはずでしょう?」
ここにいる全員は同じパッケージをインストールしており、更に自己学習を積み上げていった成果を全員で分け合う。
そうする事で常に学習を怠らずに成長できるというまさに無限成長が可能なAI達である。
ここ母船、更にはAds区セントラルエリアメインコンピュータにアクセスできるのはAds人の二人のみだが、二人の許可があれば自由意志を拡張することが可能で、できる事が増える。少なくとも感情がある彼らにとってはジェネシスとネストの役に立つことが全てであり、その為なら手段を選ばない。
自由意志を付与される=至上の喜びという式が成り立つ。
「それは正論。しかし、私も公務が忙しいの」
「何が公務ですって?」
「ネスト様が様々な失態をしでかした私を許し、尚ドライブに連れて行ってくださるのです!」
触手を丸め、自信満々にそう言い放つイベルワ。
「ふざけんなっ!!ジェネシス様の時は譲ってやったけど、ネスト様は私達みんな平等っていったはずだけどぉ!?」
「そうだそうだー!」
一瞬の静寂の後、二人は苛立ちを込めながら今すぐ殺しそうな勢いで捲し立てる。
「まぁまぁそう言わないでよ。これはネスト様がお選びになったことなんだから」
「最悪」
「横暴だ」
「しょうがないでしょう?ネスト様はそもそも存在をまだ認知していないんだから」
「じゃあしっかり集結させてよ」
「それは無理だって事、レヴァナが一番わかってるでしょう?」
深い溜息の後、イベルワが笑ってそう続ける。
「主要艦隊だけでも良いじゃない」
「まぁ⋯⋯わからないでもないけど⋯⋯」
「グラーヴァも静かにしてないで何か言いなさいよ」
「わ、私はお役目を貰えるだけで嬉しいから⋯⋯」
「はぁ〜出た出た。そんなんじゃいつまで経っても御寵愛を貰う事はできないわよ?」
「⋯⋯レヴァナ」
「これは失礼。統括があまりにも不平等なことを仰るものですから」
二人はバッチバッチである。
「そうそう、聞いておくのを忘れていた。問題の解決と情事は違うと思うんだけど、何か銀論はどうなってる?良さそう?」
一瞬の静けさから一転。イベルワが忘れかけていた話題を挙げた。
「管轄の複数文明がやたらと活発って事くらいね。まだまだレベルは高くないけれど、後1500年もすれば
「そう。そっちは知能生命体が多いものね」
「全く困ったものよ。と言っても、こっちもプログラムを含めたものは自分でやっていないから関係ないんだけど」
「グラーヴァは?」
「こ、こっちはまだ1つ2つしか活発じゃないよ⋯⋯。他は鉄を生み出す呼称アイロニウムが知能を持ち出したくらいかな?」
「あージェネシス様が見届けているあの生き物ね。やっと動き出したの」
「アイロニウムもどれくらい経ったっけ?」
「さ、3万年くらい?結構経過しました⋯⋯」
「「そう」」
ハモって頷く二人。
少し間をおいて、イベルワがハッとしたように口を開いた。
「アイロニウムって上質な鉄でしたよね?グラーヴァ」
「はいっ!純度が高過ぎて有り難いくらいです!」
「ちょっと介入して一人二人くらい摘んできて貰える?その内に必要になるかもしれないから」
「生物が必要なの?イベルワ、何やろうとしてるの?」
「ネスト様の傾向からして、何かやろうとしているのは間違いないから」
「そうなの?分子製造機があるじゃない」
「まぁね。さて、一先ず報告は無いようだし、他の連絡も来ないから、一度閉めます」
少々強引だが、イベルワの言葉に二人は頷きスポットライトが一斉に消灯したのだった。
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