創造主ってこんな感じかー

 「ヴヴヴ〜⋯⋯!!」


 アダム虎人の家の広場には、ほぼ全部の家族が集まっていた。今では彼なくして成り立たない程、彼の柔軟な発想力と統率力に皆が付いてきた。

 

 ⋯⋯言語はない。


 ただ、全員が遠吠えのようにして天に向かって泣いていた。どうにか彼が助かるようにと願うしかない彼らの想い。


 そしてそれは⋯⋯叶う。



 ──ズォォォォ⋯⋯!!!



 虎人たちの涙が一斉に収まる。

 突如森全体に響くハープを鳴らしたような神々しい音色と共に、大量の光が地面に降り注いでいたからだ。


 「ヴヴ!ヴァ!!」


 全員がアダム虎人が作った投石器を持ち、構えていると、目の前に自分たちとは違う、ヒト型の生命体が現れた。




***



 「やぁ」


 『ヴァ!』

 『ヴヴ!』


 「あははは⋯⋯そりゃそうだよね」


 「ネスト様、戦闘の方は如何しますか?」


 大量の唸り声が聞こえてくる中。隣でそう耳打ちしてくるイベルワに、俺は苦笑い。


 「なんでそうなる?音波を使えばどうにでもなるでしょ?物理で戦う必要はなくない?」


 「いえ、もしかしたら実践訓練として彼らの戦闘力を使うのかと」


 ⋯⋯⋯⋯あぁ。その考えはなかったな。


 「中々良い事を言う。しかし投石は今回外れだ。とりあえず感覚を奪おう」


 イベルワは俺の指示に恭しく頭を下げるとすぐに小型音波兵器が動く。


 今回使うのは、特定の場所にこれまた特殊な周波数を当てると平衡感覚を奪われ、立ってられないほどの衝撃を与えることのできるTZ-GTKという兵器だ。前までは副作用や後遺症を与えるような事例があったらしいが、時代と共にクリーンなものになったらしい。


 虎人たちからどよめきに近い不思議な声が出ている中、動けずにいる。そんな彼らの横を簡単に通り抜け、俺は初めての主人公と初対面だ。


 「ヴヴヴ⋯⋯ァ」


 「やぁ。初めまして俺の最初の主人公くん」


 やっぱり遺伝子を弄っているから、顔は人間でもかなりイケメンな部類になっている。野性味溢れる色男って感じで⋯⋯イイ。

 心のガッツポーズを上げたいところだが、一旦それは止める。


 「触ってもいいかい?君を治したいと思うんだ」

 

 特別な事は必要ない。心の会話は、俺の主人公に届くだろうか。


 「⋯⋯⋯⋯」


 無言のまま俺を見上げて、1分程。


 「それは触ってもいいという事かな?」


 パシパシと自分の肉体を触り、何かを伝えようとしているアダム虎人。きっとこちらの気持ちは伝わったと見るべきだ。


 「それじゃあ⋯⋯」


 指を少し動かして、ナノマシンに指示を与える。俺にはAds人の強化肉体があるから、ナノまで見えるようになっているのでどうやって体内に入っていくのが見えるが、普通の彼らにはそれは分からないはず。

 少し驚いたアダム虎人だが、やがて消えていく熱の症状に俺が何をしたのかを理解したようだ。起き上がったと思ったら何処かへ急いで向かってしまった。


 「あ⋯⋯あれ?」


 「回避行動?私達との戦闘力の差を理解したという⋯⋯でしょうか?」


 「それはないんじゃない?流石に」


 呆然と眺めていると、すぐにまたアダム虎人が何かを持って現れた。


 「ヴ!ヴヴヴ!」


 「あーお礼をしてくれるのかい?」


 両手で抱える彼の腕の中には、食べられる木の実、保存していた肉などが抱えられていた。確かそれは冬の為にとっておいた物じゃなかったかな?


 「良いのかい?」


 「ヴ!」


 「そうか、ありがとう」


 ご厚意を無碍に扱うわけにはいかない。折角なので、彼らには少し刺激を与えようか。


 「イベルワ、火を」


 「畏まりました」


 目に見えないほどの微粒子をナノマシンが生成して散布している間に、俺は燃えやすい木を持ってきて彼らを手招きする。


 「これ、ここに置いて、こう」


 指パッチンすると遠隔装置による操作でナノ粒子を発火させ、火を彼らに見せてあげる。


 「ヴ!?」


 「ヴェ!?ヴヴヴ!」


 「ほら、暖かいでしょ?もうすぐ冬だから、必要だと思って」


 虎人の全員が火を見てこれでもかというくらいのリアクションを見せている。手を上げて驚く様は凄く面白い。


 「ここ!」


 「⋯⋯ん?」


 「ここ、ここ!」


 子供の虎人が何か言ってる。


 「ここ?」


 「ここ、ここ!」


 「あー。俺の真似をしているのか」


 彼らにとっては、俺が話す言語が最初の言語だ。

 ボディランゲージではなく純粋な言語だがまぁ変な介入にはなってしまうが、少し教えようか。


 「火」


 「ひ?」


 焚き火の方を指さして単語をゆっくり繰り返して教える。


 「火」


 「火!」


 「そう。これは、火、です」


 「これは、火!」


 「そうそう」


 虎人からすれば俺は未知の生物。しかしこうして話しているのを全員が見て脅威ではないぞと先程の眼光とは打って変わって優しい瞳をしているのを見て、少し安心だ。


 「ヴヴヴ⋯⋯?」


 「ん?」


 アダム虎人が俺の隣にやってくる。


 「火?」


 「そうだ。火」


 折角なので、地面にひらがなを教えてやる。

 あ行から最後まで書き記し、一つずつ発音しながら教えていく。


 「これ」


 「これ」


 ジェネシスが弄っただけあって、耳がかなり良い。昔あったよなー。もし人間と同じように虫や動物がヒト型だった場合の動画とか。


 「ね、す、と。ネスト」


 「ネスト」

 

 「おぉ⋯⋯凄い」


 一発で俺の名前の発音をしている。さすがだな。


 「ネスト、ネスト」

 

 「ずっと観測していた主人公が名前を呼ぶと少し感動するな」


────

───

──


 それからかなりの時間を彼らと共にした。

 時間にしてどれくらいか⋯⋯一年二年だろうか。

 帰ろうとしたのだが、彼らは恩を返したいのか中々帰らせてくれなかった。


 折角なので会話ができるくらいまでには勝手に進化を促してある日突然俺達は母船に帰った。

 

 「結構楽しめたな」


 「進化を目の当たりにすると言葉では説明できない様な気持ちが湧き出るような気がしますね」


 「そうだろ?結果だけだと面白くないんだよ」

 

 さて、今度は何をやるかな。今はとりあえず⋯⋯飯が食べたい。

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