第52話 水着回だけど俺は勇者だから…

リィが持ってきた世界崩壊クエストは放っておいて、しっかりと吟味してから俺たちは一つのクエストを受注した。


それは!


「……デカすぎんだろ」


海水浴場にふよふよと浮かぶクラゲの魔物の討伐、だったのが。


報酬金が6,000円という破格の値段だったので意気揚々と受けたは良かったが…吟味する条件が金額だけだったのが良くなかったな、うん。


目の前の海にふよふよしてるクラゲ、俺が横に寝転がっても余裕なレベルの大きさしてるし。


「そぉ、れっ!」

「何のこれしき!」

「ピロシキ!」

「辛そうにゃ!?」


どうしようこれと頭を悩ませる俺を他所に、少し離れたところではファトゥとリィが砂浜でビーチバレーをしていた。


チラリと其方を盗み見る。


ファトゥは長い黒髪を紫の髪留め紐でポニーテールに結び、防具は全部端に寄せて今は白色のビキニを身に付けている。


華奢だけど綺麗な手足、小ぶりだけどビキニを着ると膨らみを感じられるお胸、きゅっと細まった腰。


白い肌とその黒猫の耳や尻尾のコントラストは美しい。クエスト中で無ければ土下座してでもガン見させてもらうところだ。


「あちょ〜♪」


ビーチボールをパァンと軽くスパイクして、太陽のように眩しい顔を見せるリィ。


彼女はいつも通りの茶色髪のツーサイドアップだが、その格好は全くの別物である。


リィもまた防具や衣装をファトゥと同じところに寄せ集め、彼女自身は首前でクロスする黒色の水着を着用しているのだ。


ファトゥよりも小柄なのに豊かな胸部装甲を持っているのにあどけない言動をするので、ぴょいんと軽くジャンプしただけでもたわわっと擬音が聞こえそうなほど暴れるのである。


お腹周りも程良く柔らかそうでお尻や太ももは可愛らしく小さいため、背徳的な危うさを感じずにはいられない。


「う〜む」


しかし、肝心の俺はフル装備。鎧も剣もバッチリだ。


何故こんな奇天烈な状況なのかは、回想に入らずとも単純明快。


このクラゲ、ただ浮遊しているだけでファトゥが爪を構えようがクゥが唸り声を上げようが一切抵抗を見せないのだ。


警戒心など微塵も感じられない。


ならばいつでも倒せる!と彼女たちは止める間も無く何処かへと消え、戻ってきた時には今の格好になっていた……というわけだぁ⭐︎


「二人とも〜、耳と尻尾を思い切り出してるけど見られたらどうするんだ〜?」

「皆クラゲを怖がって近づかないにゃ、音も気配もないし。妙に勇者、テンション低いね…あと暑くないの?」

「誰もいないなら良いか。いや、クラゲは毒があるらしいからな。魔物だったら痺れるどころじゃないだろ」

「危険なんだね。勇者、頑張って♪」


まぁ良いだろう。眼福を見せてもらっていることだし、今回はボクモカッコイイトコロミセテヤルゾ!


さっさと倒して俺もキャッキャウフフな時間を謳歌してやるぜ!!


「クラゲ覚悟ォ!」


バシャバシャと海に駆け出し、ジャンプして位置エネルギーも乗せた渾身の力で剣を振り下ろす。


決まった!と思わずほくそ笑んでいた俺。

だが、それは慢心だった。


ヒュパァン!!


「何ィ!?」


俺の剣は、突如閃いたクラゲの触手に左右から白刃取りされてしまったのだから。


両足で着地して剣を一度引き寄せる。しかし、ギギギ…と固くクラゲの触手に囚われたまま拮抗して動かせない。


「こいつ!」

「オーホッホッホッ!」

「な、何だ!?」

「何だかんだと聞かれたら…というのは省略するわね、長いし。とうっ!」


何処からともなく高笑いを響かせ太陽の下を翻り、ズサッと俺やファトゥたちとの間に舞い降りた緑髪のツインテールの狼少女。


「テハヤ!こいつは君の仕業か!?」

「えぇそうよ。クラゲのクラちゃん、よろしくね♪」

「名前あるのかよ!やり辛いな…」

「今付けたわ」

「適当じゃねぇかぁ!!」


怒涛の情報量に思わずクラゲと綱引きした状態で絶叫してしまう。


そのせいで、彼女がパレオのついた翡翠色の爽やかな水着姿であることを褒めてあげられなかった。


「……」

「?」

「その、私って水着よね」

「そうだな」

「か、かわ……褒めてはくれないのかしら!」


敵からの言葉であっても、女の子は褒めてもらいたいんだな。俺はまた一つ学ぶのだった。

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召喚された獣耳好きの俺は、獣耳と敵対する運命でした!? 燈乃つん@🍮 @283

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