第51話 今喋ったか!?

道すがらこの土地の人っぽい男性に、"安くて美味しい魚料理のうまい店は無いか"と中々わがまますぎる質問をしてしまったがその男性は快く笑顔で答えてくれた。


「あんたら、勇者様御一行だろ?最近、クトスの町の方向で被害が目に見えて落ち着いたらしいな。そいつらに代わり、俺がお礼として奢らせてもらうぜ!」

「いや、それは流石に」

「ありがとうにゃ!」

「貰えるものは貰っておこうよ!」

『クゥ!』

「……どうする?」

「あの、その、お、お願いします…」

「あぁ!ついて来な!」


虫が良すぎるかと思ったが、彼は人が良すぎる。


裏が無いかと終始勘繰ってしまったけれど、お店を出る頃にはすっかり打ち解けていた。


遠慮なく食べようとするファトゥたちを必死に宥めようとするも彼は寧ろ食べてくれるのが嬉しいとばかりに気前よく奢ってくれた。


「いや〜あの人は良い人だったね♪」

「いっぱい食べられたのにゃあ…お店の人も安くしてくれたし!」

「俺たちの功績、と言って良いのかねぇ…?」


ただ結果としてそうなってるだけで、俺自身は一体として魔獣を倒したことはない。


だから実感など皆無なのだが…まぁ、お昼を出費無しで済ませられたのはこのパーティの財布を握るものとしては有り難い限りだ。


「勇者!まだ夕方まで時間あるし、クエスト頑張ってお金稼ごうよ!それでまた、お魚食べればハッピーにゃ!」


紫水晶の目を輝かせ、ブンブンと小さく両手を振るファトゥ。リィもニコニコ笑顔でいろんな美味しいご飯に心躍らせているのが目に見えて分かる。


「まぁ、宿代がキャンプで浮くからその分を食費に回せるか。それに集会所の方も元より覗くつもりだったからな、ひとまずクエストを見に行くぞ〜」

「さぁ受けるザマスよ!」

「行くでガンス」

『フンガ〜』

「うるさぁいってかクゥ今フンガって言わなかったか!?」

『グゥ?』


掛け声一発。足並み揃え、石造りの街並みを横目に俺たちはこの街の集会所へと足を運ぶのだった。


……クゥの新たなる言語の可能性に震えながら。


〜〜〜〜〜


「お〜」


集会所の扉を潜った瞬間、俺は思わず感嘆の息を上げてしまう。


けれどそれも仕方のないことだと思って欲しい。


何せクトスとはまた一風変わった光景が、煌びやかに広がっていたのだから。


クトスの集会所はザ•異世界と言った感じの木材の机や椅子に木窓だったのだが、此方は硝子窓による穏やかな日光と大理石の建物や同じ木材でも明るめの材質の木材で作られた机たちで、空気がまるで違う。


例えるなら向こうは酒場で、此方はテラスと言ったところ。


向こうの落ち着いた雰囲気も俺は好きだが、サンカバルの爽やかな雰囲気も好みのようだ。


何より、窓の向こうから見える青々とした海は自然と心が洗われる気がする。


これは、昼間から談笑する冒険者たちも多くても納得出来るな。


「勇者、掲示板はあっちみたいにゃ」

「ありがとうトーファ。早速見てみるか」


街の中じゃ喧騒に紛れるから名前を偽る必要はないけれど、流石に集会所の中は危ない。


ちゃんと名前を呼び変えて黒猫の少女へお礼を告げる。


通り掛けに「もしかして勇者様?観光かな、いらっしゃい!」とアットホームに声を掛けられ、「はい、そうです!時間があれば回ってみたいですね…!」と返事をしてから掲示板の前へ。


「金額も向こうと大体同じ…ご飯が安いから、相対的に金額がアップした気分がするね」

「そうだねトーファちゃん。でも、魔獣は色んな種類が…あっ!」

「おっ何か良いクエストを見つけた?」


リィが嬉々として赤い瞳を見開き手を伸ばした張り紙を手渡してくるので、受け取ってそれを見る。


「何々?『アル⚪︎マウェポン作成』…って、出来るわけないだろ!?こんなものあったら魔獣軍も人間も終わりだ!」

「ロマンだよね♪」

「全て海に置いて来なさい…」

「恐ろしい子にゃ…」


明らかにおかしいので、受付嬢に確認したところ悪戯の張り紙だったらしい。


良かった…奪われた世界、奪われた心。とか始めるところだった。


勇者違いだし、あっちは紛れもない勇者だからね。比べちゃいかん。


俺は…そう、言うなればもふもふ(大好き)の勇者だから!いや、名目上敵なんだけども。

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