第50話 ありがとうございます!!(激痛)

「ついに来ましたサンカバル!」

「「イェ〜イ!♪」」

『プゥ〜!』


門を守る衛兵による検閲もやはり鎧によってすんなりとパスされ、布を被ったファトゥと自身の耳や尻尾にクゥを小さくしたリィと共に堂々と俺たちはサンカバルの街へ入った。


とても広い街道に左右に軒を連ねる無数の露店、そして大理石の地面を歩く雑踏や馬車の過ぎゆく音。


ザ•主街区といった光景に思わずテンションが上がり、道の真ん中ではしゃいでしまう。


するとファトゥたちも一緒に盛り上がってくれた。


「っといけない。幾ら舞い上がってても道の邪魔はしちゃ駄目だよな」

「勇者偉い!迷惑かけるのは良くないからね〜」

「じゃあ魚を奪っていたのは?」

「何事にも例外はあるにゃ」

「例外過ぎるだろ…」


慌てて道の端に寄ってからファトゥにつんつんとつつかれる。


そんな彼女に訝しげな視線をくれてやると、腕を組んで仕方ないとばかりの表情が返ってきた。


「おじさん」

「久しぶりな呼び方だねリィくんや」

「たまにはアイデンティティ出していこうと思って!」

「いやぁ君は十分立派な」

「勇者?」

「可愛さがあるから映えていると思うなぁ!!」


何だか懐かしく感じる呼び方をされ思わずほっこり。


しかしほっこりしすぎて口を滑らせかけ、本能で危機を感じ阿修羅すら凌駕する存在さんばりに急速転換。


えへへ〜と小さな手を自身の頰に当てて喜ぶリィと、冷や汗を拭う素振りを見せる俺。


『クゥ』


そんな俺たちにやれやれとばかりにクゥがリィの肩の上で一鳴きした。


「さて、街に着いたは良いけど…本当にクトスとは人の数が段違いだな」


露店ギリギリまでよりながら、皆して行き交う人の流れを暫し眺める。他人事には敏感で自分事には鈍感だからな。


一息付いているような顔、慌ただしく駆けて急いでいる顔。


こうして人間観察とばかりに眺めているだけでも色んな人間がいて飽きることはない。


俺の本来の仲間たちは今頃、夢の中で何処かの街を歩いているのだろうか?


「勇者」

「はいはい勇者さんだよぉ!」

「やかましいにゃ!」

「ありがとうございますっ!」


大袈裟に返事すると、突然ヒュパァン!と他の誰にも見られない速さで尻尾によるビンタを頂戴する。


モフモフと呼ぶには一瞬だったがこれもまた俺からしてみればご褒美、この痛みさえ愛おしく…いや痛いものは痛いな。


しかもジンジンする、今後は気を付けよう。


「それで、どうしたファトゥ。あまり俺から推察するのもデリカシーが無いから教えてくれたら助かるのだが」

「辛気臭い顔してるからどうしたのかなって」

「ありがとうファトゥ。あのビンタで目が覚めたよ」

「叩くと直るって言うもんね!」

「リィ?それは機械や道具の話であって人間の話じゃ無いぞ?」

「そっか…勇者、相談なんだけど」

「叩かないでくれ!」

「ちぇ〜…」


大事なことは何度も言うべし。


危なかった、あのまま話を聞いていたら俺の右頬の痛みが引く前に左頬も被害を受けていた。


「ひとまず大丈夫。ただぼ〜っとしてただけだからさ」

「なるほどにゃあ。じゃ、早速お昼を食べに行こう!此処はクトスより安く食べられるんでしょ?」

「魚のこととなると覚えが良いな…あぁそうだよ。でも、ファトゥだけはお預けかな〜?」

「許してにゃぁ!!」

「HAHAHA⭐︎」


狼狽えるファトゥが可愛くて、俺とリィはクゥの合いの手混じりに暫く彼女を揶揄いながらお食事処を探すのだった。

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