第49話 話が進まなくても良いじゃない…ギャグなんだもの

「結構走ってきたけど、あのとお〜くに見えるのがサンカバルかな?」

「見えるのかライデン」

「サイボーグじゃないけど見えるよ!望遠の魔法もあるしね〜」


リィが目の上に両手を添え、つま先立ちで遠くを見る。俺には目を凝らしても点のようにしか見えないが彼女にはバッチリ見えているようだ。


よく見ると小さく瞳の中に魔法陣が浮き出ているから、これが望遠の魔法というやつらしい。


「……」


リィは集中しているのか恐らく無意識に大きな尻尾を揺らしている。


今ならその尻尾をもふもふできるか…?


スカートの中を覗くのは、流石にゲットだぜどころかゲットアウトだぜしちゃうので無理だけど。


『グゥ!』

「はいすいません」

「勇者?」

「二度としません!!」


俺のもふもふに対する欲が漏れ出ていたらしく、足の甲をふにっと優しくクゥに踏まれファトゥはブワッと尻尾を大きくして圧を強めてきた。


まだ早いということらしい…もふもふさせてもらえる日はいつになるかな。


そんなことは根性でさておき。


「これは日暮れ前には余裕で着けそうだな」

「魚食べれるにゃ!?」

「そうだなぁ…サンカバルの集会所のクエストを覗いて、稼ぎが良さそうだったら許可してしんぜよう」

「わぁいやったぁ!」


無邪気にはしゃぐファトゥ。相変わらず撫でたくなるほどに可愛いな、こいつめ!


最悪、潮の匂いも漂い始めているので間も無く海も見えてくるだろうから、そこで魚を取るか新鮮な魚を購入して料理してやるかな。


「海に近い街か…くれぐれも魔獣軍だとバレないようにな」

「「?」」


キョトンと目を丸くするファトゥとリィ…そしてクゥ。


似たり寄ったりな反応につい微苦笑を溢す。


まるで小動物のようなファトゥたちにこほんとわざとらしく咳払いを挟んでから、話を続けた。


「良いかね諸君。君たちは何だ?」

「ファトゥたちを!」

「「誰だと思っていやがるぅ!!」」

「逆に問い返されるとは!?話が進まないから天を突くのはやめなさい!」

「螺旋の力は無限大だにゃ」

「カブト虫も加える?」

「帰ってこぉい。一巡する前に帰ってこぉい?」


彼女たちの仲の良さがアクセルベタ踏みでシンクロしてきているのは大変喜ばしい。


しかし、今ばかりは話を聞いてもらいたいな!


紫水晶の瞳と赤い瞳を細めながら、ニコニコ顔でファトゥたちはこちらに顔を向けた。


どうやら話を聞く気になってくれたらしい…安堵のため息を吐きながら、脱線した話を叩いて直すが如く再び話を続ける。


「ファトゥたちは魔獣軍だ。サンカバルの近くは森や遺跡が比較的近いが、それは人間側からしたら探索や守護がしやすいということ。


冒険者のハウトゥ本に書かれていたことの受け売りにはなるが、魔獣軍が魚を狙いづらいからこそ此処まで発展しているらしい。


つまり、そんな安全地帯とも呼ぶべきとこで君らが姿を見せたら…?」


そこまで解説したことで、漸く彼女たちも気付いてくれたらしい。ハッとした顔になると顔を見合わせた。


「遠路はるばる来てくれてありがとう!って魚が食い切れないほど貰えちゃうにゃ!」

「どうしよう!腐らせたら勿体無いよ!?」

『グゥグゥ!』

「違う、そうじゃない!」


無邪気か!と言いたくなるほどの回答にビシッとポーズを決めてツッコむ。


「勇者、あっさりファトゥたちが正解したからって意地悪は良くないにゃあ?」

「図星だからじゃない!あと君に意地悪と言われたくは無いが!?」

「なぁにぃ!?」

「やっちまったなぁ!」


によによと黒猫の耳と尻尾を揺らして揶揄うファトゥに、ビシッと指を突きつける。


すると驚いたとばかりにそれらをピンと伸ばすファトゥ。


その反応があまりにもだったので、全力で乗っかった。


「プッ…あははははっ!♪」


それがあまりに可笑しかったのか、側で俺たちを眺めていたリィとクゥが堪えきれないとばかりにお腹を抱えて笑い出してしまった。


「だ、だめだよぉ…勇者、それ不意打ち…!」

「やったね勇者♪」

「あぁ、俺たちはベストマッチだ!」


最早何の話だったか思い出せないけれど…まぁいいか!


足を止めて皆でひとしきり笑い合う。やがて、俺は思い出して今度こそ魚が高くなるかもしれないや今後が動きにくくなると注意を促し。


少しずつ近付くサンカバルの門と右手に広がり始めた青々と輝く海に、心を躍らせるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る