メイドと訓練用具
ミラが身の回りのことを静かに片付けていると、部屋の扉が軽くノックされた。まだ朝の早い時間、誰が訪ねてくるのかと少し驚いたが、すぐに女性の柔らかな声が扉の向こうから聞こえてきた。
「おはようございます。本日の訓練で使われる物をお持ちしました」
その声は丁寧で落ち着いており、朝の静けさに心地よく響いた。ミラは少し迷ったものの、ゆっくりと扉を開けた。
扉の向こうには、綺麗な姿勢で立つ一人のメイドがいた。彼女は完璧な姿勢でお辞儀をし、整った制服が彼女の端正な顔立ちと相まって洗練された印象を与えていた。手には、練習用の服と木製の剣がしっかりと抱えられている。
「おはようございます、ミラ様。本日からこちらの訓練用具をお使いくださいませ」
ミラは驚きつつも、その落ち着いた声に引き込まれ、思わず相手の顔をじっと見つめてしまった。メイドは微笑みを浮かべながら、手に持った訓練用具をミラに差し出した。彼女の動きは無駄がなく、優雅でありながら、どこか品のあるものだった。
「ありがとうございます」と短く言って、ミラはその用具を受け取った。
「私、エリシアと申します。本日より、ミラ様と他の皆様の専属メイドとして仕えさせていただきます。どうぞよろしくお願い申し上げます」
エリシアは再び丁寧に頭を下げ、ミラに対して誠実に自己紹介をした。彼女の言葉遣いや態度には、一切の緊張感や無駄な感情がなく、完全にプロフェッショナルな姿がそこにあった。
ミラは、自己紹介を返すべきだと感じつつも、自分の中でどこか少し緊張していた。しかし、静かに短く自己紹介を返す。
「ミラです……よろしくお願いします」
その言葉に、エリシアは満足そうに微笑んで応えた。「はい、ミラ様。何かご不明な点やご用命があれば、どうぞお気軽にお申し付けください。それでは、私はこれで失礼いたします」
再び丁寧にお辞儀をし、エリシアはスムーズにその場を去っていった。彼女の歩く姿も無駄がなく、ミラは少しの間その後ろ姿を見送っていたが、やがて部屋の扉が静かに閉じられると、再び一人になった。
ミラは手に持った訓練用具をじっと見つめた。しっかりとした作りの練習着は、軽やかでありながら耐久性が高そうな布地でできており、動きやすそうだ。これからの訓練に相応しい装いだと直感的に感じた。そして、もう一つの木製の剣は、模擬戦や訓練に使うものであろう。握ってみると、手にしっかりとした感触が伝わり、バランスが取れていて扱いやすそうだった。
「これが、私が使う武器か……」
ミラはその剣をしばらく手の中で回して感触を確かめた後、深呼吸をして、訓練着に着替えることにした。
鏡の前に立ち、練習着を身につけたミラは、これから始まる訓練に向けて心を落ち着かせるようにもう一度深呼吸をした。自分がどこまでこの力を制御できるのか、自信はない。しかし、訓練を通じて一歩ずつ進んでいくしかないことは分かっていた。
「……行こう」
ミラは自分にそう言い聞かせ、剣を腰に装着し、準備を整えた。時計を確認し、時間に遅れないように、いつでも出発できるように部屋のドアの近くで待機した。
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