震える腕

ミラの顔は蒼白だった。遊び疲れた体が急に重くなり、視界がぼやけ始める。彼女は立っていられなくなり、無意識にポレモスの方に手を伸ばした。


「ポレモス……私、ちょっと……」


言葉はそこで途切れた。ミラはそのまま倒れ込み、意識を失ってしまった。ポレモスは一瞬、何が起こったのか理解できずに彼女を見つめていたが、すぐにミラの状態が異常であることに気づいた。彼女の額は熱く、呼吸は浅くなっていた。ミラは高熱にうなされ、苦しそうに身をよじらせていた。


ポレモスの目は揺れ動いた。彼は何をすべきかを瞬時に考えた。今まで彼は、ただ静かにミラと過ごしていただけだった。しかし、今は違う。ミラを助けなければならない――その思いが彼の中で燃え上がった。


彼は無言でミラをそっと抱き上げた。その軽い体は、ポレモスの冷たい腕の中で微かに震えている。彼女を守りたいという強い思いが、アンドロイドの心を突き動かした。何とかしてミラを助ける方法を探さなければ。


ポレモスは、ミラを自宅に連れて帰ることを決めた。彼は今まで自分が町の人々から忌み嫌われる存在であることを理解していたが、この状況でそれを気にする余裕はなかった。ミラを救うためなら、どんな危険を冒してもいいと彼は決意した。


彼は静かに、しかし素早く森を抜け、ミラを抱えたまま町へと向かった。途中、ミラの苦しげなうめき声がポレモスの耳に届いた。彼女の体は熱にうなされ、どんどん弱っているようだった。ポレモスは心の中で焦りを感じつつも、足を止めることなく進み続けた。


ようやく、ミラの家が見えてきた。ポレモスは大きな呼吸をし、誰にも見つからないように慎重に家の近くまで近づいた。そして、どこかで見つけた布でミラをそっと包み、扉の前に寝かせた。


彼の手がドアをノックする瞬間、ポレモスの目には僅かな迷いが浮かんでいた。これでミラは助かるのか?彼がしたことは正しかったのか?だが、その考えを振り払うように彼はしっかりとドアを叩き、すぐに身をひるがえして退散した。


家の中で、ミラの父はふと外に視線を向けた。そこで彼の目に飛び込んできたのは、ミラの体を扉の前にそっと寝かせている人影だった。父は驚きと不安が胸を突き刺すように感じ、すぐに窓の外に目を凝らした。


「誰だ……?」


その瞬間、父の目はその足跡に釘付けになった。見覚えのある、かつて決して忘れることのない足跡。かつて彼の妻、ミラの母を殺した――あのアンドロイドのものだ。


「アンドロイド……!またか……!」


父の胸の奥から怒りが込み上げてきた。娘まで、あの憎きアンドロイドが何かしたのか。彼の体は無意識に震え、全身に怒りが走った。ミラの無事を確認するため、父は一気に玄関に駆け寄り、ドアを開け放った。


そこに倒れているのは、力なくぐったりとしたミラの姿だった。彼女の顔は真っ赤で、体は熱に浮かされている。父の心臓が一瞬凍りつき、全身から力が抜け落ちた。これは夢ではない、娘が今、目の前で倒れているのだ。


「ミラ……ミラ!」


父は声を震わせながら、娘の体を抱き上げた。彼の腕の中でミラは意識が戻らず、彼女の小さな体は重く感じられた。焦りと恐怖が父の心を打ちのめし、涙が彼の目に浮かんだ。父は急いでミラを家の中へと運び、彼女を看病しようとする。しかし、彼の頭の中には、アンドロイドの足跡が鮮明に残っていた。


「アンドロイドが……また……」


怒りに震える父は、ミラを守るためにこれから何をすべきかを考え始めた。ミラを救うため、そして妻を奪った憎しみの対象であるアンドロイドを排除するため、彼の心には一つの決意が固まっていくのだった。

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