孤独の中の問い

どれだけの時間が過ぎただろうか。ミラが最後にポレモスのもとを訪れてから、彼の中に時の感覚は失われつつあった。あれほど毎日顔を見せていた彼女が、ある日突然来なくなったのだ。ポレモスは最初のうち、今日も彼女が来るだろうと待ち続けていた。だが、その日も、次の日も、彼女は現れなかった。


やがて、列車の中で過ごす日々は、再び孤独のものとなった。ミラと過ごしていた時の温かさは消え、かつての日常が戻ってきたかのようだった。ただ、一つだけ違うことがあった。それは、ミラと一緒にいたときには気にもしなかった疑問が、今ではポレモスの心を苦しめていた。


「自分は……何者なのだろう?」


ポレモスは列車の中で、何度も何度も自問した。自分はどこから来て、なぜこの場所にいるのか。ミラがいなくなった今、その問いが彼の心を支配していた。彼女がそばにいた時は、その存在が彼の全てだった。だが、今やその存在が消えたことで、自分自身の存在理由が曖昧なものになり、ポレモスは深い苦悩に囚われるようになっていた。


「なぜ……ここにいるんだ?」


彼は一日中、同じことを考え続けた。答えを求めて記憶の片隅を探ったが、何も見つからなかった。自分がここにいる理由、自分の目的――それらが全く分からなかった。日が沈み、また昇るたびに、ポレモスは絶望の中でその問いに向き合った。彼はアンドロイドだが、その思考は限りなく人間のそれに近かった。目的がなければ、自分はただの「存在するだけのもの」になってしまうのではないか――そんな恐れが彼を襲った。


ある日、ポレモスは無意識のうちに森の中へ足を向けていた。そこは、かつてミラと一緒に歩いた場所だった。彼女と一緒に探検し、笑い合い、友情を育んだあの森。ポレモスはゆっくりと森の小道を歩きながら、ミラとの日々を懐かしんでいた。彼女の笑顔、彼女の優しい声、そして彼女の手を握った瞬間。それら全てが今や遠い記憶のように感じられ、ポレモスは胸に痛みを覚えた。


「ミラ……」


彼は心の中で彼女の名を呼びながら、森の中を彷徨った。すると、近くから人の話し声が聞こえてきた。ポレモスは思わず身を低くし、茂みの中に隠れた。そこにいたのは、山菜採りに来たと思われる老夫婦だった。久しぶりに見る人間の姿に、ポレモスはどこか懐かしい感情を抱きつつも、耳を澄ませて彼らの会話を聞いた。


「……ミラちゃん、まだ回復してないんだってさ」


その名前を聞いた瞬間、ポレモスの心臓が凍りついた。


「しかも、あの子がかかった病気はとても珍しいんだって。奇病なんだよ。何億人に一人しかかからないって話だ」


老夫婦の話を聞くうちに、ポレモスの中に恐ろしい現実が突きつけられた。ミラは病で倒れ、未だに回復していない。いつ息を引き取ってもおかしくない状態だという。


ポレモスは目を見開き、立ち尽くした。ミラが苦しんでいる。それも、彼女が命の危機に瀕している。ポレモスはその事実に打ちのめされ、すぐにでも彼女のもとへ駆けつけたい衝動に駆られた。しかし、彼にはどうすることもできないという無力感が押し寄せた。


だが、ポレモスは考えた。自分に何ができるか――彼女を救うために、どうすればいいのか。そして、誰に教えてもらったかも分からないが、アンドロイドとしての知識が彼の中に浮かび上がってきた。それは、森にある薬草を使って調合する薬の作り方だった。ポレモスはその知識を頼りに、すぐに行動を開始した。


ポレモスは森の中を駆け回り、必要な薬草を集め始めた。彼の記憶にある植物を手に取るたびに、その用途が頭に浮かび上がる。彼は急いで草を集め、近くの川で洗い、調合を始めた。ポレモスの手は驚くほど正確に動き、彼は静かに、そして慎重に薬を作り上げた。それは俗に言う「エーテル」と呼ばれるもので、ミラの命を繋ぐ可能性があった。


薬が完成したとき、空にはすでに夕焼けが広がっていた。ポレモスは再び決意を固めた。彼女を救うために――ポレモスは日が暮れるのを待ち、人々が眠りにつく夜を待って、ミラの家へと向かった。


彼は夜の闇に紛れ、人目に触れないように走り続けた。風が彼の背中を押すかのように、ポレモスはただひたすらに進んだ。心の中には一つの思いだけがあった――「ミラを助ける」。それ以外のことは、すべてかき消された。

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