世界政府率いる王

握手を終えた後、シルヴァンは微笑んでから言った。「さて、顔合わせはこれで完了だ。これから君たちの訓練や座学が始まるが、まずは今日の説明をしよう。創設式は1週間後に予定されている。」


「1週間後か……少し時間があるんだな」とオズが肩をすくめた。


シルヴァンは頷きながら続けた。「そうだ。その間に、ここでの生活に慣れてもらう必要がある。創設式では機関の正式な発足を祝うと同時に、君たちがどのような役割を担うかも明らかになる。上層部の指導者たちも参加する大事な場だ」


その言葉に、ミラの心は静かに燃え上がった。1週間後に行われる創設式は、彼女にとって新たな力を得て復讐の道を進むための第一歩だった。


ギルバートが真面目に頷き、「1週間で準備は万全に整えられるだろう」と言うと、ベロニカは少し無関心そうに肩をすくめながら「まあ、その間に面倒ごとがなければいいけど」とつぶやいた。


この1週間、ミラたちは訓練や座学を通して、これからの厳しい日々に備えることになる。ミラは復讐の決意を新たにし、心の中でその日を待ち望んでいた。


「さて、今日はここまでだ。君たちは一日、休暇を取ってもらうことになる。明日から訓練と座学が本格的に始まるから、そのつもりで過ごしておけよ」


シルヴァンの言葉を聞き、ミラは無言で頷いた。今日一日をどう過ごすか――復讐に燃える心が彼女を急かすものの、今はまだ準備期間に過ぎない。焦る必要はない。ミラはその言葉を自分に言い聞かせ、静かに部屋へ戻ろうとした。


ミラが廊下を歩いていると、背後から勢いよく誰かが駆け寄ってくる音が聞こえた。振り返ると、そこには明るい笑顔を浮かべたオズがいた。彼は軽い息切れをしながらも、屈託のない笑みを浮かべていた。


「ミラ、ちょっと待てよ。あいつらは城を探索してから部屋に戻るみたいだから、俺はお前と一緒に行くことにした!」


ミラは少し迷惑そうに視線を逸らしたが、オズの陽気な雰囲気に反論する気力は失せていた。彼女は何も言わず、再び歩き始める。だが、オズはその隣で無邪気に話し続けた。


「なあ、ミラ。この城、すごいだろ?一夜にして建てられたんだってさ。だからまだ人も少ないんだ。創設式が終われば、これからたくさんの人がここに集まってくるらしい」


ミラは彼の話を聞き流しつつも、ほんの少しだけ興味を引かれた。この広大な城にほとんど人がいない理由が説明されたのだ。彼女の足は自然と遅くなり、オズの話に耳を傾けることになった。


「で、ここから見える都市、見たことあるか?この都市は、今行き来できる次元の中で一番住みやすい場所らしい。自然も豊かだし、気候も安定している。次元が繋がった後、みんなここを首都にして生活してるんだってさ。不自由なく生活できるから、ほんとに最高だって話だよ」


オズの元気な声が廊下に響き渡る。ミラは表情を変えずに聞いていたが、その中で次第に彼女もこの世界の新しい現実に目を向け始めていた。次元が繋がり、生活が一変したという事実。そして、この都市がその中心にあるということ――すべてが、彼女のこれからの運命に深く関わるのだろう。


「あと、機関の話もしておこうか。今や世界は、次元が繋がったことで大混乱に陥った。でも、それを統一したのがガンド・ヨルムンって男なんだ。この男、すごいんだぜ。たった数年で世界政府を作り上げ、今や世界王って呼ばれてるんだ」


「ガンド・ヨルムン……」ミラはその名を頭の中で反芻した。彼がこの機関を創設し、世界をまとめ上げた男だということは聞いていたが、直接その名前に触れると、改めてその重さを感じた。


「ヨルムンの指導力がなければ、世界は今もバラバラだっただろうな。だから、俺たちがこの機関で学ぶことは、ただの訓練じゃなくて、これからの未来を担う大事なことなんだ」


オズの言葉に、ミラは無言で頷く。復讐心に囚われた彼女でさえ、この世界の運命にどこかで関わっているという感覚が、胸の奥で芽生え始めていた。


そのままオズの話を聞きながら歩いていると、やがてミラの部屋が見えてきた。オズは振り返り、彼女に向かって軽く笑みを浮かべる。


「じゃあ、ここまでにしておくか。それではお姫様、御機嫌よう」


冗談めかしてオズがそう言うと、ミラは少しだけ眉をひそめたが、何も言わずにドアを開けた。オズは軽く手を振り、廊下の奥へと去っていく。


彼女は無言で部屋の中に戻り、ドアを閉めた。頭の中にはオズの言葉が残り、同時に新しい世界での生活が始まった実感がじわじわと湧き上がっていた。復讐の道はまだ始まったばかりだが、これからの歩みが彼女をどこへ導くのか――それは、まだ誰にもわからなかった。

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