異世界のバザール
ミラは城を抜け出し、ゆっくりと街へ向かう足を進めた。目の前に広がる街は、彼女がこれまで見たことのない光景だった。どこか異世界的な雰囲気を持ちながらも、未来過ぎず、古さも感じさせない絶妙なバランスで成り立っている。街の中心には広がるバザールの賑わいが目に飛び込んできた。カラフルなテント、屋台の数々、行き交う多くの人々。それは、彼女の想像を超えるほどの活気だった。
「こんなに賑やかな場所があるなんて……」
ミラは思わず足を止め、その光景に目を奪われた。自分の住んでいた次元には、このような多様性に満ちた場所はなかった。どこを見ても、見慣れない物や生物が溢れている。目の前を行き交う人々も、さまざまな種族が混ざり合っているように見えた。耳が長い種族や、体の一部が機械のような存在――それらが混在するこの街は、まさに異世界というべき場所だった。
ミラはゆっくりとバザールの中に足を踏み入れた。屋台から漂ってくる香ばしい匂いが、彼女の嗅覚を刺激する。鮮やかな果物が山積みにされていたり、金属でできた奇妙な形のアクセサリーが輝いていたり。何もかもが、彼女にとって未知のものだった。
一つの屋台では、青く光る石が展示されていた。その不思議な光が、彼女の興味を引きつける。
「これ、何なんだろう?」
彼女は石をじっと見つめ、手を伸ばしかけた。その時、店主がにこやかに話しかけてきた。
「それは『ルミナストーン』さ。次元の境界で見つかる貴重な石だ。触ると、ほんのり温かいんだぜ」
ミラは石を手に取り、驚いたように目を見開いた。店主の言う通り、見た目とは違って、冷たさは感じられず、心地よい温もりが手のひらに広がった。異世界の不思議なものが、次々と彼女の前に現れる。
さらに歩いていくと、見たこともない動物たちが檻に入れられて売られている場所に行き着いた。ふさふさの毛皮を持った小さな生き物や、奇妙な触手が生えた生物――それらがミラにとって異世界の証拠だった。
「すごい……」
彼女は目の前に広がる景色を見渡しながら、そのすべてに圧倒されていた。自分が今、どれほど異なる世界にいるのか、その現実がじわじわと胸に響いていた。
そんな時だった。ふと、雑踏の中で聞き覚えのある声が耳に入ってきた。
「おい、ミラじゃないか!」
その元気な声は、すぐにミラの意識を現実に引き戻した。振り返ると、そこには黒髪のオズが、笑顔で手を振っていた。
「なんでここに……」
ミラは眉をひそめ、少し不機嫌そうな顔を見せた。オズが歩み寄ってくるのを見て、彼女は心の中でため息をついた。彼がどこででも現れるのは、もはや予測不可能だった。
「何してるんだよ?街を探索中か?」
オズはニコニコと話しかけながら、ミラの隣に勝手に立った。彼の無邪気な態度に、ミラはますます迷惑そうな顔をしていたが、彼の明るさにはどうしようもない。
「まあ、街は広いし、楽しいものがたくさんあるからな。何か見つけたか?」
ミラは無言で首を横に振った。だが、オズはそれに構わず、彼女の隣で勝手にしゃべり続ける。
「そうだ、ここには俺が教えたい店がいくつかあるんだ。行ってみるか?」
「……別にいい」
ミラはそっけなく答えたが、オズはそのまま彼女を連れて行こうとした。
「ついてきたくないなら、勝手にしていいけどな。でも、せっかくの新しい街だし、少しは楽しんでもいいんじゃないか?」
ミラは苛立ちながらも、結局はオズの言葉に従い、彼と一緒にバザールの奥へと歩き出した。彼女はまだこの世界のすべてを理解していなかったが、この一瞬一瞬が、彼女にとって大切な経験になると感じていた。
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