第6話近づく運命、そして甘い時間

訓練の日々が続き、私は徐々に自分の力をコントロールできるようになってきた。だけど、同時に体も心も限界に近づいているのを感じていた。


「今日はここまでにしよう」


カイル殿下が声をかけたとき、私はその場にへたり込んだ。汗が額を伝い、息も上がっている。魔法を使うというのは、思った以上に体力を消耗するものだ。


「ふぅ……はぁ……」


「エリザ、大丈夫か?」


カイル殿下がそっと手を差し出してくれる。私はその手を掴み、何とか立ち上がる。


「もう……限界かも……」


「無理しなくていい。君はよく頑張ってるよ」


カイル殿下の優しい言葉に、私は少しだけ心が軽くなる。でも、まだ訓練が足りない。もっと強くならないと、この国を守れないし、リュカやカイル殿下に迷惑をかけるわけにはいかない。


「それにしても……私、全然ダメだね。こんなに弱くちゃ、みんなを守れない」


「そんなことはない」


突然、カイル殿下が私をぐっと引き寄せた。彼の温かい胸板に押し付けられ、私は一瞬息を呑む。


「君は本当に頑張っている。誰も君が弱いなんて思っていない。むしろ、こんな短期間でここまで成長してるんだ。自分を責める必要はないよ」


カイル殿下の優しい声が、私の耳元でささやかれる。その瞬間、心の中の重いものが少しだけ消えていくのを感じた。


「……でも、私はもっと強くなりたい。私がこの世界に来た理由、ちゃんと果たしたいから」


「それなら焦らずに行こう。時間はまだある。僕たちがしっかりサポートするから、安心して」


カイル殿下の温かい手が、私の背中を優しく撫でてくれる。その優しさに、思わず涙がこぼれそうになった。


「カイル殿下……ありがとう」


「気にするな。僕は君を信じている。リュカも同じだよ」


そう言うと、カイル殿下は私をそっと離し、微笑んだ。その微笑みがあまりにも優しくて、胸がドキドキしてしまう。


「リュカも……」


そう、リュカも私のことを支えてくれている。いつも無口で冷静な彼だけど、私に対する優しさはしっかり感じ取っている。


その夜、訓練が終わった後、私は一人で森の中を歩いていた。少しでも気分転換しようと思ったのだ。星空が広がるこの場所は、どこか心を落ち着けてくれる。


「やっぱり、ここは綺麗だな……」


そんなことを呟いていた時、背後から足音が聞こえた。振り向くと、そこにはリュカが立っていた。


「……リュカ?」


「夜道を一人で歩くなんて、危険だ」


いつも通りの無表情で、冷静な声。でも、その言葉の奥にある優しさは、ちゃんと伝わってくる。


「ごめん、ちょっと気分転換したくて」


「なら、私が一緒に行く」


リュカはそう言って、私の隣に歩み寄る。二人で静かな森の中を歩く音だけが響く。お互い無言のままだったけれど、その沈黙が心地よかった。


「リュカ、いつもありがとう。私が魔法をうまく扱えない時も、そばにいてくれて……」


「……私は、ただエリザ様の力を信じているだけだ」


リュカは私を一度じっと見つめた後、視線を前に戻した。


「君には、他の誰にもない力がある。それを認めて、自分を信じることができれば、きっと全てがうまくいく」


「リュカ……」


その言葉に、また胸が温かくなる。カイル殿下もリュカも、私を心から支えてくれている。こんな風に二人から励まされると、何だか勇気が湧いてくる。


「……それにしても、リュカって意外と優しいんだね」


「優しい……?」


リュカは少し驚いたように私を見つめる。


「そうだよ。いつも冷静で、何でも淡々としてるけど、実は私のことをちゃんと見てくれてるんだなって感じるんだ」


「……私はただ、任務を全うしているだけだ」


「ふふっ、そんなこと言って、本当は私のこと心配してくれてるんでしょ?」


冗談混じりにそう言うと、リュカは少しだけ顔を赤くしていた。それが何だか可愛くて、思わず笑ってしまう。


「リュカ、やっぱり優しいんだよ。ありがとうね、いつも」


「……エリザ様は、やはり不思議な人だ」


リュカはそう言って、何かを考え込むように空を見上げた。その横顔が、いつも以上に柔らかく見える。



★★☆☆★★


翌日、私は再び訓練に励んでいた。昨日の二人の言葉が心に響いているからか、今日は不思議と力が出ているような気がする。


「……よし、その調子だ!」


カイル殿下が私を見守りながら声をかけてくれる。その声に背中を押され、私はさらに魔法を操る。


「はぁ……はぁ……!」


疲れはあるけれど、なんだか楽しい。自分が少しずつ強くなっているのを実感できる。


「エリザ様、もう少し力を緩めてもいいですよ。無理をすると、逆に力が暴走しますから」


リュカが慎重にアドバイスしてくれる。私はその言葉に従い、力を少し緩める。それでも、魔法の光はまだ強く輝いていた。


「すごいぞ、エリザ。君の力は確実に成長している」


カイル殿下が満足そうに微笑んでいるのを見て、私も自然と笑顔になる。


「うん、私、もう少しでできそうな気がする……!」


そう、私は成長している。二人に支えられながら、少しずつだけど、自分の力を確実に引き出せている。それが嬉しくて、もっともっと頑張ろうと思った。


「……よし、今日はここまでだ。エリザ、君は本当に頑張っている」


訓練が終わった後、カイル殿下が私の肩をポンと叩いた。


「ありがとう、カイル殿下。これも二人がいてくれるおかげだよ」


「そんなことないさ。君自身が強くなろうとしているんだ。それに僕たちは少し手を貸しているだけだ」


「でも……私は二人に感謝してる。ほんとうに、ありがとう」


そう言うと、カイル殿下は少し照れくさそうに笑った。


「エリザが笑ってくれるなら、それでいいんだ」


「……リュカも、ありがとう」


「……当然のことをしたまでだ」


リュカはいつも通りクールな返事を返すけれど、その目はどこか柔らかかった。


★★☆☆★★


こうして私は、カイル殿下とリュカの助けを借りながら、少しずつ自分の力を開花させていく。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る