第4話不安の予兆

その夜、不安が私の心を覆っていた。


「リュカ、さっきの言葉……“何かが動き始めている”って、どういう意味?」


「……何も気にしないでください、エリザ様。ただの独り言です」


リュカはいつものように落ち着いていたが、その表情はどこか硬かった。彼が何かを隠していることは明白だ。


「でも、気になるよ。私はここで何をすべきか、ちゃんと知っておきたいの」


「それはカイル殿下がエリザ様にお伝えするべきことです。私からは何も申し上げられません」


「……分かった」


何かが起こっているのは明らかだった。それが私に関係することなのか、ただの偶然なのか、判断がつかない。でも、リュカがそれ以上話さない以上、今はどうしようもない。



★★☆☆★★


翌朝、私が起きるとカイル殿下が待っていた。昨日の穏やかな笑顔はなく、彼の目は緊張感で満ちていた。


「エリザ、急いで準備してくれ。今日はいつもとは違う訓練をする」


「急にどうしたの?」


「状況が変わったんだ。説明は後で話す。今は準備を整えてくれ」


カイル殿下の声にはいつもの優しさが感じられず、私は動揺を隠せなかった。何が起こっているのか分からないまま、私は急いで着替え、彼に従った。



★★☆☆★★


訓練場に到着すると、いつもとは違う雰囲気が漂っていた。周囲には厳しい顔をした兵士たちが待機していて、彼らの眼差しは何かを警戒しているようだった。


「エリザ、聞いてくれ。実は、この国には暗躍する反乱軍がいる。彼らが動き出した可能性があるんだ」


「反乱軍……?」


「そうだ。彼らは王国の支配を倒そうとしている集団だ。今まで動きはなかったが、どうやらこの数日で何か大きな計画を進めているようだ」


「でも、それが私に関係あるの?」


カイル殿下は深刻な表情で頷いた。


「君がこの世界に来たことが、彼らにとって脅威になると考えているようだ。だから、君を狙う可能性がある」


「えっ……!?」


突然の展開に私は驚き、言葉を失った。異世界に来てまだ数日しか経っていないのに、いきなり命を狙われる可能性があるなんて……。


「だからこそ、今日は特別な訓練をする。君の魔法の力を完全に覚醒させる必要があるんだ」


「……わかった。でも、私にできるかな」


「君ならできる。昨日の進歩を見れば分かるだろう?」


カイル殿下の真剣な眼差しに、私は少しだけ勇気をもらった。彼が信じてくれるなら、私も自分を信じなきゃいけない。



★★☆☆★★


特別な訓練が始まった。カイル殿下は私に、今までとは異なる魔法の基礎を教え始めた。


「まずは精神を集中させ、自分の内なる魔力を感じるんだ。それを自分の意志で制御できるようになれば、次に進める」


「うん、やってみる!」


私はカイル殿下の言葉に従い、深く息を吸って目を閉じた。自分の中に眠る力を感じ取ることは難しかったが、少しずつ感覚が掴めてきた。


「ふぅ……」


「そうだ、その調子だ。ゆっくりでいい、焦らずに」


彼の声に導かれながら、私は自分の中にある小さな力を感じ始めた。それは温かく、柔らかい光のようなもの。今まで感じたことのない、不思議な感覚だった。


「よし、そのまま力を形にしてみよう」


カイル殿下の指示に従い、私は手を前に出し、その光を実体化させようとした。


「うん……もう少し……!」


しかし、次の瞬間――。


「――っ!」


突然、周囲が真っ暗になり、冷たい風が吹き抜けた。


「何だ……!?」


カイル殿下も驚いていた。周囲を見渡すと、どこからともなく黒い影が現れ、私たちに近づいてくる。


「これは……!?」


「反乱軍か……!」


カイル殿下はすぐに剣を抜き、影に向かって構えた。


「エリザ、後ろに下がれ!」


「で、でも……!」


「今は君を守ることが優先だ!訓練は後回しにして、まずは安全な場所に避難するんだ!」


私はカイル殿下の指示に従い、後ろに下がったが、影は私を狙って迫ってきた。


「リュカ!エリザを守れ!」


カイル殿下が叫ぶと、リュカがすぐに駆けつけ、私を背後から抱きかかえた。


「エリザ様、こちらへ!」


リュカは素早く私を連れて訓練場の外へ逃げようとする。しかし、黒い影はすぐに追いかけてきた。


「いや……!追ってくる……!」


「大丈夫です、私が必ず守ります」


リュカは真剣な表情で私を守ろうとしていたが、その目には不安が滲んでいた。それがさらに私を不安にさせた。


「リュカ……どうすればいいの?私は何もできない……」


「そんなことはありません。エリザ様には力があります。それを信じてください」


「でも……」


「エリザ様、思い出してください。カイル殿下がおっしゃったことを。あなたにはこの世界を変える力があるんです!」


「……!」


リュカの言葉にハッとした。私は無力だと思っていたけれど、カイル殿下もリュカも、私の中に何かを見ている。


「エリザ様、今こそその力を解放する時です。私が守りますので、どうか……!」


リュカの真剣な眼差しに、私は深呼吸をして心を落ち着けた。そして再び、内なる魔力に集中した。


「やってみる……!」


黒い影がさらに近づいてくる。私はその瞬間、自分の中に溢れる力を感じた。それは昨日感じたものとは比べ物にならないほど強大で、私自身も驚くほどだった。


「……これが、私の力……!」


光が私の手から溢れ、黒い影を押し返した。その瞬間、影は悲鳴を上げるように消え去った。


「やった……!」


リュカも驚いた表情で私を見ていた。


「エリザ様……あなたは本当に……」


「これが、私の力なんだ……」


私は呆然としながらも、自分の中で確かに何かが変わったことを感じていた。この世界での自分の役割が、少しずつ明らかになってきたのだ。


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