第5話新たなる力の試練

翌日、私はまだ昨日の出来事にぼんやりしていた。黒い影が私を狙って襲ってきたこと、そして、それを私の力で撃退したこと……。一体どうして、あんなことが起こったのだろう。


リュカとカイル殿下は何かを知っているはずだけど、私にはまだ何も教えてくれない。


「……大丈夫か、エリザ?」


その声でふと我に返る。目の前には、いつも優しいカイル殿下の顔があった。でも、その優しさの奥に、どこか心配そうな表情が見える。


「カイル殿下……」


「昨日のこと、気にするな。お前はよくやったよ。君の力があれほどまでに強いとは思わなかった」


「……でも、あれは一体何だったの?私はただ普通の女子高生だったはずなのに、どうしてこんな力があるの?」


「それは……」


カイル殿下が言い淀む。彼の目は遠くを見つめ、まるで何か大事なことを隠しているかのようだった。


「殿下、やはりエリザ様に全てをお話しすべきです」


リュカが口を開く。彼もまた、真剣な表情をしていた。


「エリザ様は、もはやこの世界のただの客ではありません。これからの試練に備えるためにも、真実を知っておくべきです」


「……分かった」


カイル殿下はため息をつき、私に向き直った。


「エリザ、実は……君はただの女子高生ではない」


「えっ……?」


「君がこの世界に呼ばれた理由、それは、この国を救うためだ。君の力は、この世界の命運を左右するものなんだ」


「命運を……左右する?」


あまりにも突然の言葉に、私は理解が追いつかない。


「どういうこと?私はただ、普通の生活を送っていただけなのに……」


「君がこの世界に呼ばれたのは偶然ではない。君には、古代の魔法使いの血が流れているんだ。その力が目覚めることで、反乱軍や他の敵対勢力に対抗できる存在になる」


「古代の魔法使い……私が?」


信じられない。自分がそんな特別な存在だなんて、夢のような話だ。


「だが、それはあくまで君の中に眠っている力だ。使いこなせるかどうかは、君次第だ」


カイル殿下の言葉に、私は深く考え込んだ。今までの生活が一変し、異世界に来て、さらに古代の魔法使いの力があると言われるなんて、まるでフィクションのようだ。


「でも、どうして私なの?」


「それは、君が選ばれたからだ。この国の運命がかかっている以上、君の力を解放し、完全に覚醒させなければならないんだ」


「覚醒……」


その言葉に、私は思わず手のひらを見つめた。昨日、私が使ったあの力は、まだほんの一部に過ぎないということだろうか?


「でも、私はどうすればいいの?覚醒って、そんな簡単にできるものじゃないでしょ?」


「確かに、覚醒は簡単ではない。だが、君にはすでに素質がある。昨日の出来事がそれを証明している」


「じゃあ、どうすればその力をもっと引き出せるの?」


「まずは訓練だ。君の力をコントロールするためには、もっと自分を知る必要がある。君自身の感情、意志、それらを武器に変えなければならない」


「感情……意志……」


それは確かに昨日、影を撃退した時に感じたものだった。私が強く願ったからこそ、あの力が発揮されたのだろう。


「でも……怖いよ。もし、うまくいかなかったらどうしよう。もし、またあんな影が現れたら……」


「恐れる必要はない。君には僕たちがいる」


カイル殿下が優しく微笑み、私の肩に手を置いた。


「リュカも、僕も、君を守る。だから、自分を信じてくれ」


「カイル殿下……」


その言葉に、私は少しだけ安心した。彼が信じてくれるなら、私も自分を信じなければならない。怖い気持ちはあるけれど、それ以上に、自分の力を知りたいという気持ちが強くなってきた。


「……分かった。やってみる」


私は決意を固め、カイル殿下に向き直った。


「でも、教えてほしいことがあるの。あの反乱軍って、一体何者なの?なぜ私を狙うの?」


「それは、彼らがこの国の支配を倒そうとしているからだ。君の力が覚醒すれば、彼らの計画を阻止する大きな障害になると考えている」


「じゃあ、私が彼らのターゲットになっているってこと?」


「その可能性が高い。だからこそ、君を守るために僕たちがいるんだ」


「分かった。でも、私は自分で戦う方法も学ばなきゃいけない」


「そうだな。訓練を通じて、君はもっと強くなれる。今日から本格的な修行に入ろう」



★★☆☆★★


それから数日、私はカイル殿下とリュカの指導のもと、魔法の訓練に励んだ。最初は思うように力を引き出せず、何度も失敗したけれど、少しずつコツが掴めるようになってきた。


「……よし、今日はここまでだ」


カイル殿下が汗を拭いながら、訓練を終える合図を出す。私は疲れ果てた体を床に崩れ落とし、大きく息をついた。


「はぁ……まだまだだな、私……」


「いや、よくやっているよ。焦らずに行こう。力は少しずつ確実に伸びている」


「本当かな……」


「もちろんさ。君には本当に素晴らしい素質がある」


カイル殿下の優しい言葉に、私はまた少しだけ自信が持てるようになった。私にはこの世界でやるべきことがある。それが何なのか、まだ完全には分からないけれど、少なくともここにいる意味は感じている。



★★☆☆★★


夜、疲れ切った体をベッドに横たえた私は、ふと窓の外を見る。夜空には無数の星が輝いていて、その中に何か希望の光があるような気がした。


「……明日も頑張ろう」


そう小さく呟きながら、私は静かに目を閉じた。力を覚醒させるための試練は、まだ始まったばかり。だけど、私はもう後戻りはできない。この世界で、自分自身を信じて進むしかないのだ。


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