第5話

2話:クソさいてーな男達


「…話…聞いてくれます?」

いつの間にか呟いていた。

取り消そうと思った。

男に失恋した話を男に話すのは何か、と思ってしまったからだ。

「…良いですよ。自分のタイミングで。」

無口そうな人だけど、一言一言に優しさが滲み出ている。

「…ありがとうございます。恋愛…と言うか彼氏の話なんですけどーー」


五年前

「…なぁ、俺達付き合わねぇ?」

大学のサークルが同じだった同期に告られた。

人生初の彼氏で嬉しかった。

元々金関係に問題が少々ある人だと噂されていたが、それは私がしっかり断れば良いと思っていた。

けれど…

「…ごめん!今月金なくてさ。」

「…一万!一万だけ貸してくんねぇ?」

「お願い。頼れるの梗子だけなんだよ。」

金 金 金

口から出るのはいつも金のことばかり。

前世、金と何かあったのかよ、と思わず言いたくなるほど。

これが付き合い始めて三ヶ月、ほとんどこれだ。

最初から、金のことが目的だったのだろうか。

いい金づるが欲しかっただけかもしれない。

最初は貸していたけど、後からうっとおしくなったのでことある事に断った。

すると、「…お前マジで空気読めねぇ。」と意味不明な言葉を最後に別れた。

これが一人目。

本当に最低最悪金取り男。

二人目は金取り男の事も薄れ始めた新社会人の頃。

一人でこんな感じで飲んでいると声をかけられた。

「…何かあった感じです?」

なんで?と聞くと負のオーラ全開、と笑いながら説明してくれた。

人懐っこそう、と言うのが第一印象。

そんで元彼のことを話すとやけに親身になって話聞いてくれて気がついたらーー

そこから自然と言う感じで付き合い始めた。

今度こそ良い奴、金取り男みたいな奴ではない男だと良いなと思った。

けれど、こいつも最低最悪野郎だった。

金には興味なかったけど、女に興味がある奴だった。

顔は良いのでそれはモテるモテる。

しかも一人では足りないらしく、本命がいると言うのに複数…いや、コロコロ人が変わっていた。

見るこっちが呆れる頻度で。

いや、私と付き合った理由は?と正直理解が及ばなかった。

走行しているうちに別れ話を切り出された。

"思ってたのと違った、用済みだからじゃね!"

軽〜い、非常に軽〜い、口調で告げられ、更にまた新しい彼女と腕組みしながら行ってきた。

二度目なので手が出た。

ビンタ一発で済んだことをありがたく思って欲しい。

三人目は「一目惚れしました!」と猛アプローチしてきた奴だった。

傷がまだ治りかけの私にとって悪徳詐欺そのものにしか聞こえなかった。

また、嘘だろうと。

けれど、何度も何度も声をかけてくるので、取り敢えずLINE交換して来週会う事になった。

会う日。

彼は本当に良い人で、気づけば私も好きになっていた。

そして、私のどこを好きになったのか聞くと、クールそうなところに惹かれたという。

元からもあるかもしれないけど、丁度二番目のクソビッチ野郎にイライラしていた事もある(かもしれない)。

それから改めて告白され、付き合った。

久しぶりすぎる幸せと平和に涙が出そうになるほど幸せだった。

前が余程不幸だった事を今更ながらに痛感した。

けれど、そんな幸せも長続きしなかった。

彼の方から振られた。

あんだけ好き好き言っといて何様!?

若干(と言うかかなり)呆然としながら理由を問う。

ぶん殴る前に理由を聞くとかまだ心広くて感謝して欲しい。

「…クール系が好きで付き合ったけど、現実は釣り合わねぇ奴だなって。許されるのはマンガだけだわ。」

そう思うなら最初から付き合うなぁッ!

過去二人分も含めて盛大にグーパンで殴ってやった。


「…と、言う事です。そして、今日がその三人目の理想比較野郎に振られた日です。…いや、別れた日です。」

言うだけ言って心の中で思っていた事を吐くと、残りのビールを飲みきった。

ついでにまた注文しておく。

今日はとことん飲むつもりだ。

「…なるほど。世の中最低な人もいるものですね。」

男側から見ても、最低だと思うらしい。

若干引き目の顔で聞いていた。

「…私はスッキリしましたけど、恭々橋さんは?」

「…え?俺…ですか?」

キョトンとした顔で見てくる。

「うん。恭々橋さんも何かあったのかなって。」

「…なんでそう思うんです?」

それは確認のようだった。

「勘?」

「勘…ですか。…そうですね。あったはあったんですけど…聞いてくれますか?」

その時を思い出したのか、悲しそうな顔をしながらポツポツと話し始めた。

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