第7話

3話:シュガー:ビターは2:8


「…それは大変でしたね〜。」

うわぁと引き気味の顔で戸雅が呟く。

「そうなんですよ。結局俺は三人の人に告られ振られたんです。」

哀しそうに恭々橋は頷いた。

「…一方的ってのが何だか辛いんですよね。こっちの有無も聞かず勝手に現れて消えて…あぁ!せっかく収まったのにイライラしてきた。」

グビッと勢い良くビールを飲む。

戸雅さんは酔うと口が悪くなるタイプだろうか。

恭々橋はそう思いながら自分の恋愛を振り返った。

とことんついてないな、と改めて思う。

「…私、もう恋愛はしないって決めてるんです。クソッタレな奴しか引かなそうだし。」

「…俺も同じです。心で決めてました。」

ギュッとジョッキを持った手に力が篭もる。

「……シュガー:ビターは2:8。」

突然、戸雅は呟いた。

「え?」

いきなりで恭々橋は戸惑う。

「…あ、いや。自分の恋愛振り返ったらこんな感じだったなって。甘いのが少なすぎた。…砂糖、もう少し欲しかった。」

まぁ、アイツらに望んでもね、と鼻で笑った。

「…それは俺も同じですよ。恋愛三週目…恋はしません。」

それは誓い。宣言だった。

「…恋愛三週目、か。良いですね、皮肉だけど私達にピッタリ。」

「本当に。」

二人薄ら笑を浮かべた。

「…あ、そうだ。乾杯しましょ、三週目の恋の終わりに。」

グラスを掲げている。

「…三週目の恋の終わりに。」

恭々橋もグラスを掲げ、呟く。

カチンッ

合わさり合う音が響いた。


***


「…今日はありがとうございました。」

「…いいえ、こちらこそ。」

戸雅と恭々橋はお互いに軽く頭を下げる。

「…相席になったのも縁ですし、また、会ったら飲みましょ。」

そう言って戸雅は微笑んだ。

今日で一番楽しそうな微笑みだった。

「…そうですね。」

戸雅の笑みにつられて恭々橋も笑った。

いつぶりの心からの笑みだろう。

営業職で張り付いた笑みが着いていたというのに。

こんな夜が永遠に続いて欲しいと恭々橋は思うのだった。

「…では、また。」

「…はい。」

二人は軽く手を挙げ、背を向けるとお互い帰路に向かった。


戸雅は月を見上げた。

綺麗な真ん丸の満月…ではなく歪な形で完成を留めていない十九夜。

まるで未完成な私達を描いているようだった。

(…恋の終わりの先には何があるんだろ。)

月を見上げるのを止め、おもむろにポケットに手を突っ込む。

煙草を切らした事に気づく。

踏み潰した煙草の感触を思い出しながら、コンビニに寄ろうと足早に歩いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る