第10話「未来へ続く道」

 春の穏やかな日差しが村を包む中、グリーンウィンド村に思いがけない来訪者があった。


「お初にお目にかかります。私はロデリック・イーグルクレスト。隣国の領主をやっております」


 洗練された衣装に身を包んだ青年が、村の集会所で自己紹介した。村人たちは驚きと緊張の表情を浮かべている。


 ロデリックは続けた。


「こちらの村の噂を聞きつけてまいりました。科学の力で村を発展させているとか」


 村長のアルベルトが一歩前に出た。


「はい、その通りです。我が村の……」


 アルベルトは一瞬躊躇った後、綺羅の方を見た。


「我が村の賢者、綺羅のおかげです」


 ロデリックの目が綺羅に向けられた。


「ほう、あなたが噂の賢者ですか。こんなにお若いとは」


 綺羅は緊張しながらも、しっかりとした口調で答えた。


「はい、月村綺羅と申します。村のために微力を尽くしているだけです」


 ロデリックは興味深そうに綺羅を見つめた。


「あなたの知識と技術を、もっと大きな舞台で活かしてみませんか? 我が国で、あなたの才能を存分に発揮していただきたい」


 村人たちの間でざわめきが起こる。エリーゼが不安そうな表情で綺羅を見つめている。


 綺羅は深呼吸をして、ゆっくりと答えた。


「ロデリック様、ご提案は大変光栄です。しかし……」


 綺羅は村人たちを見渡した。


「私の居場所は、ここグリーンウィンド村にあります。この村の人々と共に成長し、学び、そしてこの世界をよりよいものにしていきたいのです」


 ロデリックは少し驚いた様子だったが、すぐに微笑んだ。


「そうですか。大変残念ですが、あなたの決意は尊重します」


 そして、ロデリックは村人たちに向かって言った。


「しかし、それならこれからもグリーンウィンド村と交流を持たせていただきたい。あなた方の知恵を、もっと多くの人々と分かち合えればと思います」


 アルベルト村長が喜びの表情で答えた。


「もちろんです! 我々も喜んで協力させていただきます」


 村人たちから歓声が上がった。


 その夜、綺羅はエリーゼ、ガレス、オリヴィアと村はずれの丘に集まっていた。


「本当によかったわ」エリーゼが安堵の表情で言った。「綺羅が村に残ってくれて」


 ガレスも頷いた。「ああ、お前がいなくなったら、俺たちはどうなっていたことか」


 オリヴィアは優しく綺羅の肩に手を置いた。「あなたの決断を誇りに思うわ、綺羅」


 綺羅は皆を見渡し、温かな笑顔を浮かべた。


「みんな、ありがとう。私にとって、この村は家族同然なんです。これからも一緒に、もっと素晴らしい未来を作っていきましょう」


 四人は夜空を見上げた。満天の星々が、彼らの未来を祝福するかのように輝いていた。


「ねえ、綺羅」エリーゼが尋ねた。「次は何を研究するの?」


 綺羅は目を輝かせて答えた。


「うーん、たくさんあるわ。例えば、もっと効率的なエネルギーの作り方とか、新しい農業技術とか……」


 ガレスが笑いながら言った。「相変わらず、すごい好奇心だな」


 オリヴィアも楽しそうに付け加えた。「そうね。あなたと一緒なら、きっとこの村はもっともっと発展するわ」


 綺羅は深呼吸をして、決意を込めて言った。


「みんなと一緒に、この世界の謎を一つずつ解き明かしていきたいな。そして、その知識でもっと多くの人々を幸せにできたら……それが私の夢なんです」


 四人は固く手を取り合った。グリーンウィンド村の、そしてこの世界の未来は、彼らの手の中にあった。


 月明かりに照らされた丘の上で、彼らの新たな冒険が始まろうとしていた。


(了)

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現代知識を武器に異世界をゆっくり革命!~元・天才科学者の少女、運命を切り拓くほのぼのファンタジー~ 藍埜佑(あいのたすく) @shirosagi_kurousagi

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