幕間その5「読書の楽しみ」
秋の肌寒い日、綺羅は村の図書館で過ごすことにした。図書館と言っても、小さな部屋に本棚が並んでいる程度のものだが、綺羅にとっては大切な場所だった。
入口で彼女を出迎えたのは、図書館の管理人を務めるアガサ・エルダーウッドだった。
「おや、綺羅さん。今日もまた本を借りに来たのかい?」
綺羅は優しく微笑んだ。
「はい、アガサさん。今日は一日中ここで過ごそうと思って」
アガサは嬉しそうに頷いた。
「そうかい。ゆっくりしていきな。何か探している本があれば言ってくれ」
綺羅は本棚を眺めながら、ゆっくりと歩いていく。この世界の歴史書、植物図鑑、錬金術の理論書…様々な分野の本が並んでいた。
しばらくして、綺羅は興味深そうな本を見つけた。
「これは…『異世界からの来訪者たち』?」
アガサが近づいてきて、説明を始めた。
「ああ、それは古い伝説を集めた本だよ。君のように、別の世界から来たという人々の話が書かれているんだ」
綺羅は目を輝かせた。
「面白そうです! これ、借りてもいいですか?」
「もちろんだとも」
綺羅は本を手に取り、窓際の椅子に座った。ページをめくるたびに、新たな発見があった。
しばらくして、エリーゼが図書館にやってきた。
「あら、綺羅。ここにいたのね」
綺羅は顔を上げて微笑んだ。
「エリーゼ、こんにちは。ちょうど面白い本を見つけたところなの」
エリーゼは興味深そうに綺羅の隣に座った。
「へえ、どんな本?」
綺羅は熱心に説明を始めた。
「この世界に来た他の転生者たちの話なの。彼らの経験や、もたらした知識について書かれているわ」
エリーゼは驚いた様子で言った。
「えっ、綺羅以外にも転生者がいたの?」
綺羅は頷いた。
「そうみたい。でも、ほとんどが遠い昔の話ね。中には、大きな発明をした人もいるみたい」
エリーゼは綺羅をじっと見つめた。
「綺羅も、きっと後世に語り継がれる人になるわ」
綺羅は少し照れくさそうに笑った。
「そんな…私はただ、みんなの役に立ちたいだけよ」
その時、ガレスが図書館に入ってきた。
「おや、二人とも何を読んでるんだ?」
エリーゼが説明すると、ガレスも興味を示した。
「へえ、面白そうだな。俺にも読ませてくれ」
綺羅、エリーゼ、ガレスの三人は、図書館の一角に集まっていた。綺羅が見つけた『異世界からの来訪者たち』という本を中心に置いて、その内容について語り合っている。
「ねえ綺羅、この本に書かれている転生者たちも、あなたと同じように現代の知識を持っていたのかしら?」
エリーゼが興味深そうに尋ねる。
「そのようだね。ここに書かれているように、ある転生者は、魔法のない世界から来たと語っていたそうだ。そして、その知識を活かして、多くの発明をしたらしい」
綺羅が本の一節を指差しながら説明した。
「へえ、すごいな。その人も綺羅と同じように、この世界に大きな影響を与えたんだろうな」
ガレスが感心したように言う。
「でも、転生者の中には、自分の知識を独占しようとした人もいたみたいね。ほら、ここに書いてあるわ」
エリーゼが別のページを指差す。
「なるほど。確かに、強大な力を手にすれば、それを悪用したくなる人もいるだろうね」
ガレスが頷きながら言う。
「だからこそ、私は自分の知識を村の人たちと共有したいの。独り占めしても意味がない。みんなで幸せになれる方法を探していきたい」
綺羅が真摯な表情で語る。
「綺羅……。あなたの思いはみんなに伝わっているわ。だから村の人たちも、あなたを信頼しているのよ」
エリーゼが優しく微笑む。
「ありがとう、エリーゼ。でも、私はまだまだ未熟者だから、みんなの助けが必要なの。三人で力を合わせて、この村をもっと良い場所にしていきたいわ」
「ああ、そうだな。俺たちも全力で綺羅を支えるよ。一緒にこの世界の未来を切り開いていこう」
ガレスが力強く言う。
「そうね。私たち三人なら、きっと何だってできるわ」
エリーゼも微笑んで頷いた。
「みんな……心強いわ。改めて、仲間の大切さを実感したわ」
綺羅が目を潤ませながら言う。
三人はそれから、本に書かれていた様々な逸話について語り合った。時には真剣に、時には笑い合いながら。過去の転生者たちの経験は、綺羅たちに多くの学びと示唆を与えてくれた。
「ねえ、私たち三人の友情も、いつかこんな風に本に書かれたりするのかしら?」
ふと、エリーゼが言った。
「面白い考えだね。もしかしたら、未来の誰かが、私たちの物語を読んでくれているかもしれない」
綺羅が微笑む。
「ははっ、そうかもな。だとしたら、俺たちの友情の物語、結構面白いと思うぜ」
ガレスが楽しそうに言って、三人は笑い合った。
窓の外では、夕暮れ時の柔らかな光が差し込んでいた。穏やかな空気の中で、三人の友情は一層深まっていく。
「さて、そろそろ夕食の支度をしないとね」
綺羅が立ち上がりながら言う。
「そうだ、今日は私が作るわ。綺羅直伝のレシピで、きっとみんなも喜んでくれるはず」
エリーゼが張り切る。
「おお、楽しみだな。綺羅とエリーゼの手料理なら、間違いないぜ」
ガレスも嬉しそうだ。
しばらくして綺羅は本を借りて図書館を後にした。
「アガサさん、素晴らしい本をありがとうございます」
アガサは優しく微笑んだ。
「いつでも来なさい。君の好奇心が、きっとこの村を、そしてこの世界をもっと豊かにしていくんだろうね」
帰り道、綺羅は本を胸に抱きしめながら考えていた。
「私も、この世界に良い影響を残せたらいいな…」
エリーゼとガレスも同じことを考えているようだった。三人は黄昏時の村を歩きながら、未来への夢を語り合った。
読書を通じて得た知識と、仲間との語らい。それらが綺羅の心を豊かにし、新たな挑戦への原動力となっていくのだった。
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