第11話 ギャルと食のはじまり

「入江~! 今日もよろしくなっ!」


 光丘くんと再会してからというもの、ほぼ毎日のように彼女に声をかけられることが当たり前になった。


 しかも、クラスのみんながいる前でもお構いなしに後ろから声を張り上げてくる。


「入江氏……やはり何か弱みを握られているんすね?」


 そのせいで、唯一の友人である江口くんがその度に心配の声をかけてくるようになってしまった。


「いやぁ、最近仲良くなっただけですよ」

「本当? 何かわたしたちも見ていて心配になったよ?」

「うん。だから大丈夫ですよ」

「何かあってからじゃ遅いんすから、気軽に相談に乗るっすよ」


 江口くんだけでなく、少数ながら自分の席近くの女子たちからも声をかけられるようになったりして、ぼっちが解消しつつあるといういいような悪いような日が増えた。


 そして昨日のがまるでなかったかのように、光丘くんは休み時間がくるたびに俺の元にやって来てはニヤけ顔を見せてくるようになった。


 それが繰り返されたせいか、周りのみんなは温かい眼差しだけを向けるようになっていた。


 そして昼休み。


 いつものように机に突っ伏そうとしたところで、誰かに肩を掴まれた。


「ったく、そんなんだから貧弱なんだよ。分かってんのか、入江!」

「いやぁ……それほどでもないです」

「褒めてねーよ! ってことで、今日からあたしらと昼メシ一緒な! ほら、立てよ」


 ええっ!?


 ……などと声を上げて驚く暇も無く、光丘くんに腕を掴まれてそのまま廊下へ連れ出されていた。 


「入江は何が好物? 好き嫌いは?」

「好きなのは炭酸水ですかね……」

「それ、液体だから」


 この子はA子……あいなだったっけ?


 何で質問しながらメモを取っているんだろう。金髪ギャルなのにデータ好きってやつなのか。


「うちは辛いの苦手~! 甘いのなら大体イケるよ? 入江っちも同じ?」

「そ、そうですね。苦手というわけでもないですけど、激辛は得意じゃないです」


 で、青色メッシュがB子のみやび……だよな。話しやすいギャルって感じだけど、まだ何とも言えないタイプか。


「入江はエロい女子なら何でも頂けるよな? なっ?」

「エ、エロ……!? いや、光丘くんが何を言ってるのかちょっと分からないです」


 昨日のことをちゃんと根に持ってたみたいだ。


「あっ、そーなの? へ~入江っちはオープンスケベ野郎ってわけか~」

「ち、ちがっ!」

「入江のアソコは要警戒……」

「何もかもが間違いですよ? い、嫌だなぁ……誤解させること言わないでくださいよ~」


 A子とB子の二人は、とりあえず光丘くんの言葉を素直に信じてるって感じがあるな。


「……ちっ、いい子ぶりやがって。まぁ、とにかく今日から何でも食べてもらうことにしたんでよろしくなっ!」

「え? そ、それって昼休みはいつも光丘くんたちと一緒って意味ですか?」

「放課後もな! 歓喜のあまりあたしらに抱きつくか? そんでどさくさ紛れに吸いまくるか?」


 ここは断固として首を横に振りまくった。


 廊下を歩きながらの会話だからいいようなものの、光丘くんの危ない言葉の数々は非常に厄介すぎる。


 まさか学校でも普通に言い放ってくるとは正直思わなかった。


「ってことで、カフェテリアに到着したぜ!」


 どこに向かっているのか分からずに歩いていたら、俺にとって禁断の場所であるカフェテリアに着いていた。


 まだ入り口付近でありながら、見渡す限り陽キャ集団しか座っていないように見える。


「…………う」


 俺が立ちいってはいけない雰囲気が漂い過ぎなのでは?


「入江っち、どしたの? 時間ないし行こうぜ~!」

「え、あ、う……」


 言葉にならないどころか言葉を忘れたみたいに動けない。そんな俺を放って、あいなは何の迷いもなく奥の席へと消えてしまった。


「ねね、みなと。入江っちが息してないんだけど?」


 いや、生きてますが。


「あん? あ~……」


 みやびの反応に首傾げながらも、光丘くんが俺の前に近づいてすぐに状況を察してくれた。


「しょーがねーな。みやび、お前左手な! あたしは右手だ」

「おっけー!」


 何が何だか分からないまま時が過ぎ去るのを待とうとしていると、光丘くんが俺の右手を握り、左手はみやびが力強く握ってきた。


「へ? え~と……?」

「入江、あたしらに逆らわずにそのまま動けよな!」

「そそ。素直に動いてくれればすぐに終わるし~」


 などなど、ギャル二人に両脇を固められながら、禁断のカフェテリアへと足を踏み入れることに。


 昨日までは手繋ぎすら戸惑いがあったのに、こうも簡単に呪縛が解けるなんて。光丘くんももう照れていないみたいだ。


 この間、二人のギャルに挟まれた俺が一番注目を浴びたのは間違いなかった。


「……あたしから入れるか? それともみやび?」

「うちの方だよね~? 入江っちは黙ってそーだと言え~!」

「紛らわしい言い方はさすがに……」

「言い方なんて気にすんなよ! ここにいる連中はそういうのにてんだぜ?」


 ……つまり、エロい意味も含めて紛らわしい言い回しも全く関係ないと。


「……ったく、仕方無い奴だな。あたしからのハンバーグを口に入れるか、それともみやびからのおはぎを口に入れるか……どっちにするんだ?」

「口移しなら食べる感じ? うちはそれでもいいよん! さぁ、入江っち! 選べ!」


 食べる方を選ぶのか……ううむ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る