第15話 甘いものと恋のギャル店員
「いや~入江氏が甘いものが好きとは意外っすね~!」
「言わなかっただけで本当は結構好きなんですよ」
「それなら良かったっす! 何せ好きじゃ無ければ行けない場所なんすから」
光丘くんと色々あった日から数日後。
あの日とは打って変わり、休日の今日は江口くんの一生のお願いを訊いてしまった関係で、とあるスイーツ屋に向かっている。
男子だけでスイーツ屋に行くのはかなり難易度が高いとされているうえ、江口くんと二人で行くのも妙な緊張感があって、歩きながら周りをかなり警戒しまくりだ。
何せ時坂学園の周辺にある繁華街は、学園にいるギャルよりも数が際限なくいる。それだけでもモテない男のプレッシャーは半端無いのである。
「入江氏。こ、ここっす! このお店が一番流行りのスイーツ屋ってことで間違いないっす!」
「おぉ……」
江口くんに連れて来られた店は、どう見ても女子受けしそうな可愛い装飾がふんだんに使われた外観をしている。
そして結構頻繁に出入りする人気店のようで、見てると見事に女性ばかりで男だけで入っていく気配は無い。
「と、ところで、江口くん。このお店の何が目当てなの?」
「甘いケーキ……いや、それもあるんすが、こ、ここで働いてるアルバイトの子が好きなんす」
「え、そうなの? じゃあ俺が一緒じゃない方がいいんじゃないかな?」
「いや、それがっすね……店員は清楚で大人しめのギャルなんす。なので、多分いきなり話しかけると出禁になりそうなんすよ」
清楚で大人しいギャルって。何だか矛盾してるような気もするけど。でも見た目がギャルでも中身は分からないしなぁ。
「それで俺と一緒にってことですか?」
「……っす。それと出来ればギャルに慣れてる入江氏が声をかけて欲しいんす」
「えぇ!? 俺が声をかけるの?」
ギャルに慣れてるつもりは無いんだけど、教室でのやり取りを見ている江口くんからしたらそう見えてしまっても不思議はないのかな。
しかし、好意を持っている江口くんじゃなくて俺が声をかけてしまうと変な誤解を与えてしまいそうな気もする。
「いくらでもケーキを買うんで、どうかお願いするっす!」
「……何て声をかければいいのかな?」
「僕と一緒にケーキを食べて欲しいっす……と。それでいいっす」
「それだとどう考えても……いや、うん、分かりました」
出入り口付近でこんな会話をしているせいか、そろそろ通報されそうなので代わりに伝えることにした。
俺も大概だけど、江口くんもほぼぼっち男子ということもあって話しかけることすら無理ゲーなのだ。
「いらっしゃいませ。お好きな席へどうぞ。店内でお召し上がりですか?」
「はい……っす」
「あ、はい」
店内へ突入し、江口くんだけ先に適当な席へと移動させた。
「ご注文を……あれ?」
「え?」
店員の顔も見ずに注文するも、何やら店員側が何か気づいたようで声が止まっている。
何かやらかしたかもなので、慌てて名札を見るとそこに書かれていたのは――
「M・B……んん?」
「入江っちだ! なになに? もしかしてうちに会いに来てくれた?」
「琵琶さん!?」
「そうで~す! 甘いもの好きだから来た感じ?」
そういや、昼休みにそんなに甘くないおはぎを口に運ばれ未遂されていたな。しかし、まさかここでバイトをしているとは。
「そんなところです」
まさかと思うが、江口くんが好意を抱いている清楚ギャルって琵琶さんのことなのでは?
「でも、ウチの店は和菓子じゃなくてケーキだよ? 平気?」
「もちろんです。えっと、注文します」
「おっけ~!」
青い髪のギャルだから清楚どころか下手すると光丘くんの髪よりも近寄りがたいはずなのに、バイト中は髪を隠してるからその部分に気づけない感じだろうか。
それにさすがに言葉遣いもバイトモードだしなぁ。
「はい、ケーキ二つ。入江っちは誰と来てる感じ?」
そう言いながら琵琶さんは席の辺りを気にしている。
「同じクラスの友達ですよ」
「男子の?」
「それくらいしかいないので」
「スイーツ男子か~可愛い奴だねっ! 入江っち、その男子といつまで一緒なん?」
会話してるうちに江口くんが伝えたかったことを言わなければ。
「そ、その前に琵琶さんに伝えたいことがありまして」
レジにいる琵琶さんに伝えるのもなかなか厳しいな。
「ほ? ん~ここだと厳しいからさ、うち、もうすぐ上がりだから外でいい? 店の裏にちっさい公園っぽいのあるから、そこで待ってま~す!」
やっぱりそうだよな。バイト中にそれは無いよな。江口くん、許してくれ。
「じゃ、じゃあそれで」
「ういうい!」
店の裏にそんな場所があるとは意外だったな。
「――というわけでして、店員さんが言うにはバイト時間が終わらないと厳しいみたいです」
「むぅ……それは危なかったっす。では入江氏。ケーキを追加で買っておくんで、時間を潰して店員の彼女に伝えておいて欲しいっす」
「え? 江口くんは?」
「帰るっす! 貴重な休日の時間をケーキで使わせてごめんっす!」
時間を使わせて申し訳ないと言わんばかりに、一人だけになった俺のテーブルには複数のケーキが並んでしまった。
頑張ってケーキを完食したところで、レジには別の女性店員が立っている。どうやら琵琶さんの時間は終わっていたらしい。
店の外に出て裏へ回ると、確かに公園らしき場所があってそこに琵琶さんの姿があった。
「入江っち、おっつ~!」
「お、お疲れ様です」
「入江っちすげーじゃん! 何個食べたん?」
「うぷ……ご、五個です」
「偉い偉い! 甘いもの好きとか、それってうちにとって好ポイント!」
高ポイントじゃなくて、好きの方なのか。でもスイーツ屋でバイトしてる子だし、そうじゃないと駄目な話だよな。
「んで、話って~?」
「あ、え~と……これはとある恋をしてる人の言葉なんですけど、琵琶さんに伝えたいみたいで、俺が代わりに……」
「ほ~? 恋をしてる人の言葉! それを入江っちが言っちゃうわけだ?」
間違って無いし、俺の言葉と言って無いから多分伝わるよな。
「ま、まぁ……」
「よぉし! 聞いてあげようじゃないか! さぁ、カモ~ン」
「僕と一緒にケーキを食べて欲しいっす」
よし、伝えた!
――しかし、どういうわけか琵琶さんの俺を見る目が疑いの目に変わっている。
「…………僕ぅ? あれ、入江っちって俺って言ってなかったっけ?」
「だからこれはとある――」
琵琶さんは何度か首を傾げながらかなり悩みまくり、どこかの答えにたどり着いたようで俺を見ながら満面の笑みを見せた。
「そっかそっか~。よし、許す! 入江っちはこれからうちのことをみやびちゃんと呼ぶがいいさ~!」
「へっ?」
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