第2話 ギャルというか光丘くんを攻略?
「……へ?」
理想と現実はそもそも違うし、俺がみーくんと遊んでいたのは恋愛要素のあるシミュレーションとかアドベンチャーのギャルゲーばかりだったんだよな。
実在のギャルはもちろん、女子との交際はおろか手さえ繋いだことが無い。
「あの頃ギャルゲーを攻略しまくっていただろ? それを思い出して、本物のギャルを攻略! 簡単だろっ?」
恋愛経験レベル0の俺がいきなりギャルを攻略とか、あまりに不可能な難題なのでは?
「む、無理ですよ……」
「何が無理なんだよ? あの頃あたしと部屋で二人きりな毎日だったろ!」
「あの頃は男の子だと信じて疑わなかったわけだし意識なんてするはずもなく……その頃と今とじゃあまりにも違いすぎるっていうか、無理がありますよ~」
おまけにさっきから無意識なのかわざとなのか下着が見えまくりだし、ちっとも机の上からおりようとしてくれないし……。
「……というか、スカートなのにあぐらをかいて座るのは駄目ですってば!」
「あ、見る~?」
「見ませんって!!」
――などと俺基準で厳しく言ったつもりなのに、光丘くんは全く気にしていないのか姿勢を直してくれない。
「変なところで頭が固いのな。そんな難しく考えんなよ! うちのクラスのギャルの誰でもいいから、告ってみればいいだけだ! なっ?」
言いながら光丘くんは俺の肩をバンバンと叩いてくる。この辺のスキンシップは当時と同じだ。
うちのクラスというか、光丘くんが座っている席はギャルたちが集まっている陽キャフィールド。片や俺が座る一番前と周辺は、比較的真面目な男女生徒ばかりで先生たちに優しくされやすい当たり障りのないセーフティエリア。
教室の出入り口は前と後ろにあるので、後ろの人とそもそも出会わない作りになっている。要するにわざわざ後ろを振り向くこともなければ近づくことも無いので、後ろの席のギャルに声をかけることすら至難の業なのである。
「告れと言われても名前も顔もよく分かってないですし……」
「はぁ? もうすぐ一年目の冬が来るのに? まだ覚えてねーの? マジかよ……筋金入りのぼっちじゃん!」
そう、もうすぐ身も心も凍える十二月に突入してしまう季節。冬を越せばあっという間に二年に上がってしまう。
そうすると彼女を作るとか以前に、ただのゲーム友達しか話せる友達がいないという現実だけが淡々と過ぎていくだけなのだ。
「それに俺、女子と手を繋いだこともないです。それを飛ばして告るとかは無理ゲーすぎますよ……」
「マジで!? あきつぐ……何でそうなった……」
「何でと言われても、強いて言えばギャルゲーを極めるためにひたすら遊び倒した結果の結果ですとしか」
「そっか~……それはあたしにもちょっとだけ責任があるか~」
それは違うよと言いたいけど光丘くんに言える立場じゃない。
「……よし、分かった! まずはあたしを攻略しろ! それなら簡単だろ?」
「えっ」
「長いことべったりとくっついてた仲だしな! あたしと恋愛するのが一番てっとり早いし、楽勝だろ?」
くっついてたの意味がまるで違うし男の子だと思っての行動なのに、そこは省かれてしまうのか。
「えっと、俺のこと好きなんですか?」
「まぁな! 友達だから当然だろ! あきつぐはあたしのことが好きじゃねーの?」
そんなこと言われたら答えは一つしかない。
「す、好き……ですけど、それってあくまでゲーム好き友達の好きになるんじゃないかと……」
「細かいことはいいから! そうしろよ! なっ?」
「光丘くんを攻略対象にするって具体的にどうすれば?」
「あ……あたしの名前、みなとだから! 光丘くんでもいいけど、いちお~女子だし変じゃね? ってなるし。本気で恋愛するんなら名前で呼ぶくらいじゃないとな!」
光丘みなと――みーくん。
まさかギャルになった光丘くんと再会して初めて名前が分かるなんて、俺はどれだけ無駄な時間を費やしてきたのか。
「み、みなとさん」
「やめろ気持ち悪い……呼び捨てで良くね?」
気持ち悪いまで言うのか……選択肢を間違った時のセリフそのまんますぎるな。
「やっぱりしばらくは光丘くんでいいですか? それか、みーくんで」
いくら何でも急展開すぎる。
「却下だ。ま~でも、あきつぐは女子と手を繋いだことの無いドーテーくんだもんなぁ……名前は好きに呼べよ。ってか、ドーテーだよな?」
女子と手すら繋いだことがないからその通りなんだよな。少しだけ遊んだ18禁の中では経験? はあるけど、それは経験とは呼べないし。
「その通りです……」
「あ!」
何か閃いたのか、光丘くんが分かりやすく握り拳で手の平を叩いた。
「は、はい?」
「まずは触れてみるか? それか、揉んでみるか?」
「な、何を……?」
この後に出てくるセリフはエロゲーならおそらく――
「――あたしを!」
いや、ちょっと違ったというか大雑把すぎ!
本当に触らせる気がないかのように、光丘くんは自分の胸に手を置いておっぱいを揉みつつ、にやけながら俺を見ている。
「その手には乗りませんよ?」
「ちぇっ、つまんねーの。今だけだぞ、こんな大サービスな展開は。まして放課後っつっても、お前とあたししかいない教室なんてあまりないぜ?」
目の前に差し出された女子、それも大人びたギャルのおっぱいを揉めるチャンスなんて、この先訪れないかもしれない。
それでも今は、ギャルゲーを遊んでいた光丘くんとの再会を喜ぶと同時に、まずは最低限必要な現実女子との接し方に慣れることから始めないと俺の精神がやられてしまう。
「いや、今はいいですよ。光丘くんのことは好きだけど、まだ再会したばかりですからね。むしろ光丘くんに協力してもらえればいいかなと思ってます」
「……協力?」
「はい。まずは女子に慣れることを一緒に、です」
「つっまんね~! なんだそりゃ……んん~ん~……」
非協力的なのは俺の方かもだけど、レベル0からいきなりレベル100の男になれるほどそっちの経験は甘くない。
しかし俺のことで光丘くんを悩ませてしまったみたいで、ずっと気難しい顔で髪の毛をいじっている。
そこからふわっとした香りが届いているだけに、その反応に困りかねない。
「光丘くん……?」
俺の机にあぐらをかいて座る彼女に声をかけると、彼女はすっと足をおろして俺の眼前に立った。
すごく間近で俺を見つめる光丘くんから視線を外そうとすると、彼女は俺の顔を両手で挟み、そして。
「ま、楽しくやろーや! あきつぐのことは他のみんなにも教えとく! 明日から攻略よろしくなっ!」
……などと俺の心配を全く気にすることなく言い放ってきた。
俺よりも長身なのに威圧感が無いのが救いだろうか。頬に触れている彼女の手も決して強い力でもないし。
「よ、よろしく」
「あきつぐの上の名前は?」
「入江……です」
「じゃ、しばらくそう呼ぶことにすっから! じゃあな、入江!」
「あ、うん。またです」
あっという間の出来事だった。
それくらい急展開なことが起きたうえ、用事を済ませた彼女の去り方も見事としか言えないくらい素早かった。
誰もいない放課後の教室に残されたのは、俺と光丘くんの名前が書かれたギャルゲー誌と俺だけ――というオチである。
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