女心って難しいよねって言いながら一緒にギャルゲーしてた光丘くんがギャルになっていたし、実は女の子だった話

遥 かずら

第1話 光丘くん……?

「女心って分っかんないよな~」


 ……などと言うのは、ゲームセンター通いで知り合って仲良くなった男友達のみーくんだ。


 みーくんは、短髪で長身の男の子。声変わりが遅いとかで結構な高音ボイスだったりする。


 対する俺は、最近まで野球をしていたことが関係して校則で決められた坊主頭に近いくらいの短髪。背は平均よりやや低めで、みーくんと歩いていると弟に間違われるレベル。


 そんなみーくんと俺は違う中学だ。だけど、ゲーム好きが高じて俺の自宅で一緒に家庭用ゲームで遊ぶ仲でもある。


 お互い外で遊ぶことはほとんどなく、俺の家でひたすらギャルゲー攻略をしまくっている。みーくんの家は遠いところにあるうえ、ゲーム機が無くゲーム攻略雑誌も買っていないとかで俺の家に遊びに来た時は夢中になって攻略雑誌を読みまくりだ。


 時間の大半はギャルゲーを攻略すること。ギャルゲーといっても、あくまで家庭用で所謂18禁じゃない。


 家庭用のギャルゲーは選択肢重視で物語が変わっていくということもあって、俺とみーくんはいつも選択肢を相談しながら攻略していた。


 そしてその度に、ゲームの物語でありながら同じ言葉を口にする。


「高校生になったらギャルゲーみたいに女心を掴んで攻略出来るようになるんかなぁ? あきつぐはどう思う~?」

「ん~……現実はもっと難しいんじゃないかな。でも俺はギャルゲー攻略は極めるつもり!」


 ――そんな呑気な会話を楽しんでいたのに、高校受験を控える時期になってみーくんは気落ちしながら俺に別れの挨拶をしてきた。


「あきつぐ、ごめんな~。もう会えなくなった……」

「えっ。そ、そっか、受験だもんね」

「それもあるけど……とにかく、楽しかった。ありがとな! じゃあ」

「そういえば、みーくんの名前は?」

「みな……じゃなくて、光丘みつおか! じゃあな、あきつぐ!」


 光丘だからみーくん……。


 なるほど光丘くんだったんだ。下の名前までは教えてくれなかったけどまあいいや。


 高校受験があるし、さすがに俺みたいに遊んでられないよな。それを光丘くんの方から言ってくれたのは感謝しないと。


 光丘くんとは別にギャルゲー攻略をほぼ極めた俺は、成績ギリギリで何とか高校に進学。


 そして当然ながら生身の女子との思い出は無いに等しく、中学での思い出はギャルゲーとそれを一緒に遊んできたみーくんとの思い出しか残っていない。


 そんな俺だから、高校生になっても基本的に準ぼっち状態。だが、一年生でいられるのもあとわずか。それだけに少しでも多くの友達を作っておきたいところだ。


 なんたって俺とまともに話せる友達なんて、アプリゲームという共通会話で話せるたった一人の男子友達のみ。


 同じクラスにいる女子の名前すらまともに覚えていないから余計にタチが悪い。


 そんなある日の放課後。


入江いりえ陽継あきつぐ。お前、教室に何かの雑誌を置き忘れていたぞ! 取りに戻らないと処分するが?」 

「えっはい! すぐに取りに行きます」


 外に出ようとする俺に、担任の先生から注意を受けてしまう。先生は俺が暇さえあれば何らかの情報誌を見ていることを知っている。


 そのおかげで、時々こうして忘れていることを教えてくれたりするからかなり救われているわけだが。


 何せ今日に限って持って来たのはギャルゲー攻略情報誌。


 これを誰か特に女子に見られてしまうと、ますますぼっち率が高まってしまう。ただでさえ俺の席は一番前。廊下からでも見られやすいし、教室を出て行こうとする誰かが思わず手に取る恐れがある。


 ……ということで教室に戻ると教室には誰もいないかと思いきや、誰かが俺の席――机に座っている?


「あ、あの~、そこは俺の席なんですけど……」


 俺の席というか机の上に堂々と座っているし、恐れていたギャルゲー攻略雑誌をめちゃくちゃ読まれているし、しかもよりによってギャル。


 ギャルだけど、細い足首に白い肌。


 スカートがめくれて思わず見えてしまいそう……じゃなくて。


「ちょっと、あの……俺の声が聞こえてますか?」


 それにしても、随分と大人っぽいギャルだな。


 長めの前髪を後ろにかき上げて後ろ髪にはパーマをあてているうえ、髪色はトップの部分が黒くて毛先は茶色、落ち着いたトーンの色づかいをしている。


 校則に決まりは無いけど、派手な色を好まないギャルといったところだろうか。

 

 少なくとも近くの席にはギャルがいないから、多分後ろの席に座るギャルなんだろうな。


「ふんふん、へぇぇ……今はこんなんがウケてんのか~! 何か思い出してきた~って……お前、誰? 何でそこに突っ立ってんの? 何か用?」

「えっと、そこは俺の席なんですけど……それと、その本も俺の――」

「――そうなん? でも名前書いてなくね? 自分の物って証拠はあんの?」


 教科書とかじゃないのに雑誌に自分の名前なんか書くわけない。反論なんて出来そうもないけどいうだけ言ってみるか。 


「ギャルゲー攻略No.229……それは俺が持ってきた本なので。そもそもこんな本を持ってくる人なんてこのクラスにはいないと思います」


 自分で言ってて泣きたくなる。


「確かに! でもあったら見ちゃうけどな! ギャルゲーってついてるし」


 さすがに人目についたら見てしまうか。完全にやってしまった。


「そ、そうですね」


 ギャルゲーというか、ギャルって見出しがでかいから仕方ないと割り切るしかないんだろうな。


「まぁいっか! お前の物なら今すぐ名前書いときなよ。ほれ、消えるペン! 丁度良く机の中に入ってるし」


 なぜに人の机の中を物色しちゃうのか。大して物なんか入れてないとはいえ。


「じゃ、じゃあ裏表紙に……」


 裏表紙は白い部分があるので、言われた通りに俺の名前を書くことにした。どうせ後で消せるし、分かりやすくひらがなで書いてしまおう。


「あきつぐ……あきつぐ? お前、あきつぐなの?」

「はぁ……そうですけど」

「ふ~ん。じゃ、あたしも書いていいか? お前の物かもだけど、あたしも読んだから半分あたしの物みたいなもんだし名前書いとく!」


 何だろうそのガキ大将みたいな屁理屈は。


 だけどその流れになってるし、俺の名前を知った途端にテンションが上がったみたいだし機嫌は損ねないに限る。


 スラスラと自分の名前を書くギャルの指先を見てみると、そこには……。


「光丘み……えっ!? 光丘……くん?」


 書いてる途中で騒いでしまった……。せっかく下の名前が分かりそうだったのに。


「当ったり~! 何だ~そっか~! お前が一番前に座ってるぼっち男子だったとはなっ! 変わんねぇな! それがかえって良かったかもだけどさ~」

「は、ははは……」

「で、あきつぐ。お前、彼女いんの?」


 唐突だな。


 名前が分かったからってそんなすぐにそんなこと訊いてくるなんて。言葉遣いもあの頃と同じっていうか、ギャルになってますます光丘くんらしい。


「そ、それよりも、みーくんがギャルっていうか、その……」

「いちお、女子だったわけだ! ま、あの頃は髪短くしてたし仕方ないよな~。で、どうなん? 彼女いる?」


 ぼっちだと認識してるんなら、いるなんてことにはならないと思うんだけどな。


 とりあえず、落ち込みの意味を含めて無言のまま頭を下げてみせた。


「あ~……だよな。ごめん、やっぱ今でもギャルゲーのギャルに夢中なん?」


 ギャルゲーは最近のは遊んでないし、そもそも持っていたのを極めたから遊ぶ気にならないんだよな。今は所謂美少女ゲームの18禁を遊ぶこともできるけど、空しくなるだけだし。


 それでも、ギャルゲー攻略誌を買うのだけはやめることは出来ないのが何とも言えない。


「いやっ、今は特には。攻略雑誌を買うのは趣味ってだけだから」

「それを聞いて安心だな! それじゃあさ、本当のギャルを攻略してみないか?」

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