第17話 オトコっぽい光丘くんが迎えにきた件
ケーキ屋でバイトしている琵琶さんが好きだと言っていた江口くんに対し、俺は彼女に言われたことを正直に伝えることにした。
「……そ、そうっすか。やっぱり自分の口で伝えないと実らないもんなんすね」
「そこはギャルゲーと同じだと思うよ」
「っすね……」
分かりやすく落ち込んでいるけど、大丈夫だろうか。
「江口くん。スイーツ屋の店員さんはどうするのかな?」
店員が琵琶さんだということは教えてない。こればかりは自分で声をかけて知ってもらわないと。
「諦めるっす!」
随分早いな。
「えっ」
「まずは身近にいる女子と仲良くするところから始めるっす!」
そう言って、江口くんは教室内にいる女子たちに視線を向けながら気合いを入れていた。
……俺に出来ることはここまでかな。
「入江っち~! はろー!」
「ハ、ハロー」
午後の休み時間、珍しく琵琶さんだけが俺に声をかけてきた。いつもは光丘くんが声をかけてくるのが日常ということもあってか、周りの……特に江口くんが目を丸くして驚いている。
江口くんは気づいていないようだけど、まさに昨日まで彼が好きだった人がすぐ近くにいることを教えてあげたくなりそうだった。
琵琶さんはその相手が江口くんだということに気づいて一瞬だけチラ見したものの、すぐに俺の正面に回り机に肘を置いて俺の顔を見つめてきた。
こんな積極的な行動に出るとは予想外だ。昨日の告白はあくまで江口くんの代わりだったはずなのに、問題が俺にすり替わってるとしか思えない。
「入江っち、ま~だうちに緊張してる系?」
「いや、そんなことは無いですけど……なぜかなと」
少しだけ後ろを気にすると、光丘くんが俺に睨んでいるように見える。
「なぜなぜ~? 挑発だよ?」
「挑発……え、誰に?」
「もち、みなとに向けて。ついでにあいなも含む感じ!」
ああ、やっぱりそうだった。完全に光丘くんの不意をついて俺の元に来たので間違って無かった。
光丘くんは短い休み時間はあまり俺の元に来ない。大体は昼休みになってからが多く、帰る間際はほぼ毎日声をかけてくる。
それだけに琵琶さんの意外な行動にかなりムカついているっぽい。
「え、でも、昨日のアレは……」
「入江っちじゃないってのは知ってるよ。でもさ、うちは本気モード入っちゃった。だからヨロ~! ってことで、そろそろ自分の席に戻るよん」
「あ、うん」
「でも、今日はMMに譲るけどね~」
MM――光丘くんのことだよな?
――ということが休み時間にあった放課後。
今度は潮さんが俺に近づいてきた。もっとも彼女の場合何を考えているのか分からないことが多かったこともあって、ちょっとだけ身構えながら待ち構えた。
教室にはほとんど人が残っておらず、琵琶さんもいなければ光丘くんの姿も見当たらないからだ。
「入江」
「は、はい」
そんな中だから妙な緊張感があるんだよな、潮さん相手は。
「入江はアルバイトしてる女子が好み?」
「……え、何で?」
「みなととか、みやびとか、手を出しまくってるから」
手を出してきたのは潮さんの方だと思うけど本人にはさすがに言えないな。
「そんなことないと思いますが……あいなさんもアルバイト始めるんですか?」
「……そうしないと駄目な気がしたからそのうち始めるつもり。始めたら入江に常連になってもらう」
何を始めるつもりがあるんだろうか。あまりお金がかからないところなら通えそうだけど。
「そうそう、みなとだけど……今日終わるって言ってたから、だから入江が迎えに行けばいいと思う」
「終わるっていうのはバイトのことですか?」
「そう。私はこれからバイト面接に行く。だから入江は今すぐ行くといい」
「行くってどこへ?」
俺の疑問に対し、あいなは一枚のメモ用紙を俺に渡してきた。
「……時坂ステップロード花壇前で待て? ここに行けばいいんですか?」
なぐり書きがすごいな。
「私は頼まれただけ。詳しくは知らない。行けば分かるから。じゃあ入江。後で楽しみにしてる」
そう言って潮さんはさっさと教室から出て行ってしまった。後で楽しみにって意味はおそらくバイトのことだろうけど、すでに不安すぎる。
とりあえずそこに行けば光丘くんに会えそうなので、俺は急ぐことにした。
――時坂ステップロード。
ここは琵琶さんがバイトしているスイーツ屋からほど近い商店街通りで、どっちかといえば夜に賑わうエリアだ。
それこそ大人が集まりそうなカフェとか、居酒屋なんかが建ち並んでいる。
この通りに少しでも憩いの場を設けようとしたいのか、カフェの並びに花壇があってそこで待ち合わせをする人の姿がちらほらと見えている。
メモによればここで待てということなので、とりあえず待つことにした。
しかし、光丘くんは数十分以上待っても一向に現れず、ただただポツンと待ち続けているという空しい状態が続いている。
連絡手段があるとはいえ、ここで待てと言われてる以上勝手に連絡するのはどうしたものかと待っていると――
「――悪いね、迎えに来たのに待たせてしまった」
声は光丘くんなのに、見た目はどう見てもイケメンにしか見えない人が俺の前に立っていた。
その姿格好は、黒いマスクで顔を隠し、髪はショートで服装はワイシャツにネクタイ――といった男の俺よりカッコイイオトコそのものだった。
「み、光丘くん……ですか?」
「ああ、そうさ。ふっ、見惚れたかな?」
「…………な、何と言えばいいのか」
普段はアネキなギャルなのにまさかの男装とか、言葉に出来るはずもない。
「まぁ、もう終えてきたわけだけど。せっかくだから陽継にニキな姿を堪能してもらおうと思ってそのまま来たのさ。気に入ったかな?」
通りがかる女性が目をやるのも無理はないくらいイケメンすぎる。
「ニキ……アニキでしたっけ」
「ふっ」
「堪能って言われても、どこでですか?」
「陽継の部屋さ。好きなだけ、ね」
何だか意味深なような気がするけど、部屋に行くならいつもどおりだよな?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます