第8話 悪夢のあとには祝杯を

 乾杯のグラスが居酒屋の店内に鳴り響く。

 カルピスサワーの甘味に混ざったアルコールが心地いい。

 頬に強いの1発もらったが口の中が切れていなかったことは幸いだった。

「あぁ~、人の不幸の味うめぇ」

 飲んでるのが蜂蜜ベースの酒だからか?

「いい性格してるね、お前は」

 まぁ、褒められたことじゃない、むしろロクでもないことで酒を飲んでる僕も大概なんだろうけど。

「仕事は無事に終わったし、それにプラスしてあんたはご褒美もらったんだからいいじゃん」

「僕にSMの趣味はないってことは分かった」

 ぶっ叩かれたけどそこに爽快感はなかったよ。ただ痛いだけだった。

 チンピラ刑事は随分と羨ましそうな顔をしていたけれども。

「振るわれた暴力に、晒した醜態のあれこれ……。これをネタに脅せば最低でも今夜はホテルでワンチャンあったんじゃない?」

 手近のおしぼりをセクハラ女の顔にぶん投げる。

「冗談でもやめなさい。あの刑事と同レベルなコメントは。品性を捨てるな、品性を」

 東と同レベルと言われてしまったのがさすがにショックだったのだろう。小さくゴメンと呟く。

「分かればよろしい」

 反面教師こそがロクデナシの唯一の価値だとよく分かる1コマだ。

「大体、水野さんの晒(さら)したあれこれはこっちの責任も大きいし、ぶっ叩かれたことに関して

 は向こうも謝ったからこれ以上蒸し返すつもりはありません。これ以上はナシ。はい、この話終わり!」

「……やっぱり、薄幸巨乳だから色々と甘いんだぁ。やっぱり眼福とご褒美をもらったから甘めな対応なんだ」

 かわいそうに。まだ一杯目だというのに不幸の蜜がもう頭に回ってしまっているようだ。

 もはやツッコむのも面倒臭いのでメニュー表に目を落とす。


 整体院でちょっとしたひと悶着はあったものの、夢の試聴を終えたその日に依頼は実行されることとなった。

 依頼人である水野美穂からの強い要望だったからだ。

 決意が鈍らぬうちにということだったのだろう。

 ちなみに東は追い返した。本当に邪魔にしかならないので。

 病室に辿り着いたのは日が傾き始めたころだった。

 ベッドの上で彼女の母親は静かに寝息を立てていた。

 起きていたら相棒に眠らせてもらうところであったが余計な手間はかけずに済んだ。

 無駄足だったと文句を垂れる声はもちろん無視した。

 ベッドに近づくと見せてもらった写真通りの姿が目に写った。

 穏やかで、恐れるものなど何もないという表情だった。

 家族を捨て去った。

 責任を放棄した。

 信頼に砂をかけた。

 自分の幸せ以外を一切排除した者だけが得ることができる安らぎがそこにはあった。

 さりとてまったく羨ましいと思えないのは僕が世間知らずだからだろうか、それともこの女性が特殊だからだろうか。

 僕には分からない。

 分かることはこの女性は実の娘に恨まれるほど、残されたわずかな生を地獄に変えてほしいと願われる人間に成り下がってしまったということだ。

 寝息をたてる額に指を添える。

 最後に水野さんに目配せする。

 彼女は黙ってうなずいた。

 やりますよ、とか、いいんですね、とか。そんな野暮なことはもう聞かなかった。意思確認は整体院で済ませいるのだから。

 その意思は受け取っている。

 目を閉じる。

 イメージするのは水野さんに見せたあの悪夢。

 なあ。

 内心で語りかける。

 今から見せるもの、あんたが主人公なんだ。

 娘さんが先に体験したけど大好評だったよ。

 大変だったよ、文字のゴミを解読しながらあんたの大好きな神様の世界観をイメージするのは。宗教なんて丸っきり信じてないのに僕の方が何倍も苦行したような気分だったよ。

 なあ、あんたさぁ。

 一体、何がしたかったんだよ?

 水野さんの話が正しければ最初は病気の娘のために藁にも縋る思いで入信したんだろ?

 それが何がどうなって自分だけしか幸せになれなくなっちゃったんだよ?

 本当に満足かい?

 本当に幸せかい?

 そう思おうとしてるだけじゃないか?

 ホントにさ。

 何がしたかったんだよ?

 まあ、多分、質問したとしても何も返ってこなかっただろうけどさ。

 不毛な問いかけに1人結論をつけながら。


 僕は幸せになってしまった人間を地獄に叩き落とすイメージを流した。

 

 イメージを流し終えると、最期まで見届けると言った水野さんを残し僕と旭は病室を後にした。

 依頼の成否が分かったのは20分ほど経った頃だった。

 病院のエントランスで休憩を取ろうとしていた僕たちの耳につんざくような悲鳴が届く。

 それが無事に依頼が完遂された合図となった。


「薄幸巨乳さ、何か煮え切らない顔してたよねぇ」

 チビチビとグラスを傾けながら旭が口を開く。

「どうでもいいけどそのあだ名、固定なの? まあ、いいんだけどさ……そういうもんじゃないの?」

 旭が言っているのは別れ際の水野さんの表情のことだろう。

「もっと嬉しそうな顔してもいいじゃん? それか後悔してるなら後悔してるで悲しそうな顔をしてくれないとこっちだってやってよかったのか悪かったのかわかりゃしない」

 随分とモヤモヤしていらっしゃる。

 水野さんとは病院で別れた。

 深々とこちらにお辞儀をしたのち、頭を上げた彼女の表情は旭が言った通り何とも言い表せないような色を浮かべていた。

 復讐が達成されたあとの表情にはとても見えなかった。

 喜びとも、悲しみとも、空しさとも、嬉しさとも、どんな感情とも取れるそんな表情だった。

「多分さ。水野さんも自分の感情がどういうものなのか、あんまり分かってなんだと思うよ? やってやったぞって達成感もあると思うし、やってしまったっていう後悔もある。ざまあみろっていう気持ちもあれば、空しいっていう虚無感もあったと思う」

 人間の心なんて0か100か、白か黒かで説明がつくものじゃない。

 これから時間をかけて彼女は自分の気持ちに向き合っていくのだろう。

「じゃあ、これやっといたのは正解だったね」

「何が?」

「これ」

 旭が自身のスマホを僕に見せる。

 LINEの連絡欄。

 その項目の一つに【薄幸巨乳】というワードを見つける。

「連絡先交換したの? いつの間に? というか珍しいね? 他人にアドレス教えるなんて」

「すっごい煮え切らない顔すぎたからさ。こりゃあ、すぐに日和ひよるかもって思った。もう辞めてほしいってなったら特別料金でやってやるって感じで。うん……まあ、いきおいで」

 そう語りながら旭はグラスに残った氷をカラカラと鳴らす。

「お前、優しいな」

 そう言うと今度は僕の顔面におしぼりが叩きつけられることになった。

「そんなんじゃねえわ。イチイチ、悪徳刑事の仲介でマージンピンハネされたらたまんないから直で連絡できるようにしただけだから。ほら、あれ、コキャクのシンキカイタクってやつ」

「さいですか」

「さいです。あの女が日和ったら今回の依頼料の倍額請求するつもりだから」

 無理してワルぶらなくてもいいんだけどねぇ。

 ロクでもないことやってはいるけど腹の底から外道にならなきゃいけないわけでもないんだから。

 まだペチャクチャと理由を語る相棒に適当に相槌を打ちながら自分のグラスを空にする。

 さて、次の一杯は何にしようとメニューに視線を送ったところだった。

「ところでさ」

 唐突に旭が話題を変える。

「何さ?」

「何考えてたの?」

 何のことか分からず首を傾げてしまう。

「薄幸巨乳の母親に向かって何か思うところありそうだったじゃん」

 ああ、それか。

「別に何でもないよ」

「嘘だね」

「本当だって」

「何か言いたそうな顔してた」

 しつこいな、お前も。

「いいよ、もし教えてくれたら、ここの支払い私が多めに払う」

 そんなにしてまで知りたいの?

 ちょっと引くわ。

「女に二言はない」

 あら、イケメン。

「……本当にどうでもいいことだよ」

「酒の席の話なんて9分9厘はどうでもいい話で構成されてるもんだよ」

 それは偏見というものです。

 まあ、こっちが負担する代金が軽くなるし、別に隠すようなことでもないか。

「この人、一体全体何がしたかったんだろうなって」

「はあ? 神様にすがりたかった。ただそれだけっしょ?」

「それは分かるよ。たださ、そこまでに行きつくまでに何があったのかっていうのもやっぱり気になっちゃってさ」

「犯罪者の背景やたらとピックアップして同情集めようとするマスゴミか」

 あんな下世話なものと同列視するでない。

「……水野さんの話ではさ、最初は病気がちの娘を看病してくれるちゃんとした親だったはずなんだ。なのに、何でパチモン宗教なんかになびいちゃったのかな?」

「心が弱かった。それだけじゃない?」

 随分バッサリいくね。

「そんな身もふたもない言葉でまとめないでよ」

「頭お花畑になっちゃった人間の心なんか簡単に分かってたまるかい」

「話広げる気ある? お前から吹っ掛けてきたんだよ?」

「予想以上にくだらなくてえた。貴重な時間を浪費させたイシャリョウとしてここの代金おごって」

 ぶっ飛ばすぞ、お前。

 舌の根も乾かんうちにもう二言が出てきたぞ。

「……お前はさ、あれだね。生まれてくる種族間違えてるんじゃない?」

「知ってる? 最近はその手の発言もヒボウチュウショウになるんだよ?」

 言いたいことも言えないこんな世の中だな。

 飲まんとやってられん。

 グラスに残るサワーを飲み干す。

 この店はカルピスの原液が多めなのか底の部分で一気に甘味が増す。

 あぁ、甘い。お子ちゃま舌の僕には合っている。

「……まあ、私が考えうるにね」

 次に何を頼もうか。

 そんなことを考える僕をよそにグラスの氷を鳴らしながら旭がつぶやく。

「えっ、何? 話続くの?」

「誰ももういいなんて言ってない」

 本当にこいつは……。

 とは言え、こいつの見解が気になったのでメニュー表に伸ばしかけた手を引っ込め、次の言葉を待った。

「強いて原因をあげるならこいつなんじゃね?」

 グラスに揺れる氷を眺めながら旭は言う。

「誰さ?」

「薄幸巨乳の父親」

 水野さんの父親。

 夢の創作のため生前の写真を借りてその姿は目にしている。

 言っては悪いが、冴えない風貌の男だった。

 お人よしそうな顔つきで、額と一緒に幸も薄そうなどこにでもありふれた佇まいをしていた。

「水野さんのお父さんが原因? 何でさ?」

 言ってしまえば彼は嫁に裏切られたあとも男で一つで水野さんを育て、嫁の尻ぬぐいのために人生をすりつぶしてしまった善意の被害者ではないのだろうか。

「確かに薄幸巨乳の話ぶりではいい父親だったんだろうね」

 でもさ。

 カランと氷が鳴る。

「はたして、

 これは。

 考えもしなかったことだ。

「本当にいい父親であったんだとは思うよ。娘の治療費のためにあくせく働いて、お見舞いやら世話やら欠かさずやって、バカ嫁が金持って逃げた後もその返済のために身を粉にした。どこぞのチャリティー番組が視聴率のために特集組んで取材しそうな聖人君子っぷりだったんだろうなってフツーに想像できる」

 イチイチ毒を吐くでない。

 あと言わせてもらうなら、あの番組は同情を集められるようにもっとえげつない環境に置かれている対象を狙う。悪いが水野さんの家レベルではまだまだパンチが弱い。

「でも、それってさ、あくまでも娘である薄幸巨乳からの視点だけにすぎないんだよね」

「水野さんのお母さんは違うと?」

 僕の相槌あいづちに旭はうなずく。

「娘の治療費稼ぐためには働かなきゃいけないわけじゃん?」

「うん」

「その間は娘のそばにはいられないじゃん?」

「そうだね」

「じゃあ、その間につきっきりでいなきゃいけない母親は、たった1人になるわけじゃん?」

 その通りだ。

「いつ死ぬかも分からん子供と長時間2人きりなんだよ? 孤独感エグくね?」

『母は父よりも私に付き添う時間が長かった分、その心労も大きかったんだと思います。心の拠り所がどこにもなかったんです』

 フードコートで水野さんもそう言っていた。

「……想像するだけでも気が滅入るね」

「で、それに耐えられなくなったバカ女は宗教に走っちゃったわけだけどさ……」

 カラン、とまたグラスが鳴らされる。

「その間、?」

 旭と視線が重なる。

「仏像の出来損ないをあがめてるような頭お花畑な集団に取り込まれるくらい心が弱ってた。じゃあ、そうなるまでに何をしてた? できたことはごまんとあったはずなのに」

 僕はずっと水野さんの立場からものを考えていた。

 相棒は違う。

 彼女は今、母親の立場で語っている。

「支えなきゃいけないのは娘だけだったか? その娘と一緒に心をすり減らしていた嫁にも寄り添わなきゃいけなかったんじゃないのか? 私が母親だったらこう思う」

 旭の身体が前のめりになる。

 その瞬間、目の前にいるはずの相棒は相棒ではない誰かに変貌へんぼうした。

 猫のような目がグッと近づいてくるが視線を逸らすことができなかった。

「私だって娘のために頑張ってるはずなのに、苦しいはずなのに。どうしてあの娘ばかりで私のことは支えてくれないの? どうして? ねぇ、どうして? って」

 ここだけ酸素が薄いのだろうか。

 妙に息苦しい。

「でも、見てくれなかった。助けてくれなかった。支えてくれなかった。。私のことを助けてくれる、この苦しみを分かってくれる人たちの元に私は行く」

 お前のことなんてもうどうでもいい。

 スッと旭の身が引かれ、金縛りのような硬直から解放される。

「と、私なら思うわけですよ」

 おどけながらまとった雰囲気を一変させる。

 僕の反応が面白かったのか口元が少しばかり吊り上がっている。

「……さいですか」

 悔しい事にちょっとビビった。

 喉を潤すために手をつけていなかったお冷を飲み干す。

 甘味のない潤いが口の中で広がる。

「……旦那さんに対する復讐……という、わけ、か」

 グラスを置きながら僕は口を開く。

「私だったらそう思うだけ」

「……根拠はゼロってことね」

「想像で話すことを真に受けすぎ」

 そうはぐらかしながら旭は自身のグラスに口をつける。

 でもなぁ……。

「もしもさぁ……」

 今しがた置いたお冷のグラス。溶けて小さくなった氷を眺めながら独り言のように僕はつぶやく。

「もしも、そうだっだとしたらさ。僕の悪夢は、ある意味で大成功なのかもしれないね」

 もしも、水野さんの母親が人間でなくなってしまった原因が自分をないがしろにした夫に対する復讐であるのならば。

 娘を押し付け、借金と罪悪感だけを残したときに何を思ったか。

 カミサマの元で生きていける幸福とは別種の暗い喜びを得ていたのだろうか。

 そうであるならば僕の悪夢は皮肉なことになる。

 信じていたカミサマが嘘っぱちであったと同時に。

 

 それも含めて因果応報と言ってしまえばそれまでだが。

 何とも滑稽こっけいであり、何とも哀れな話である。

「……もし、またさ」

 視線をグラスから旭に移す。

「水野さんに会う機会があったら今の話、絶対に言うなよ」

「……まあ、相当ファザコンこじらせてたからこんな話キレるだろうね」

「それもあるけども……」

 言いかけた言葉を途中で飲み込む。

「何?」

「いや、うん。まあ、何でもない」


 いぶかしげにこっちを見つめる旭に僕は言葉を濁した。

 言葉に出してはいけない。

 言ってしまったらそれは言霊になって彼女のことをそうとしか見れなくなってしまう。

 そんな気がした。

 水野美穂という女性の人生において父親という存在は極めて大きな割合を占めている。

 多分、亡くなってしまった今でもそれは変わらないだろう。

 でも、ちょっと待てよと思ってしまった。

 幼少期の母の裏切りとその後の父の献身。

 幼いころ見てきた光景により彼女が父親に向ける感情は、ある種崇拝に近いものになってしまっているのではないか。

 おそらくは彼女自身はそれに気づいてはいない。

 もし父親に抱く感情が崇拝なのだと気づいてしまったら。

 最悪な気分になってしまうだろう。

 父親のことを憎い母親と同じように崇拝の対象にしているなんて。

 まんま母親と同類になってしまうのだ。

 その上、可能性の話とはいえ、その父親が母親を人間でなくした原因となってしまっているのだとしたら。

 きっと正気ではいられない。

 絶望に顔を染めた哀れな彼女。その足元がガラガラと崩れていく光景を幻視してしまう。

 だから言葉にはしない。

 言葉にしたら彼女を哀れな人間としか見れなくなる。

 そういう同情は多分、この世で最も失礼に分類されるものだ。


「何言いかけたのさ? 教えろ」

 よく分からない琴線に触れたのか相棒がまた僕の口を割らせようとする。

 しかし、今度は口を割るわけにはいかない。

 浮かんでしまった邪推は酒とともに飲み込むとしよう。

「おかわり頼むけど、お前も何か頼む?」

 露骨に話を逸らしたので、向けられる視線が痛い。

「……コークハイ」

 訝しげな視線はそのままだが、ボソリとした返答がきた。

「飲み物? まだグラス半分も残ってるじゃん?」

 てっきりツマミでも注文するかと思ったのに。

「ちゃんと飲みなよ。この店、グラス交換制で全部飲まなきゃ次の注文できないって店員さんも言ってただろ」

 僕の言葉には答えず、旭は黙って自分のグラスを僕に差し出してきた。

「何?」

「あんたも飲め。人の不幸の味だ」

「何でさ?」

「私の酒が飲めんと?」

 どこのパワハラ上司だ、お前は。

「お前のグラスだろ? お前が責任持ちなよ」

 旭は黙ったままだ。しかし、その視線はしきりに飲めと言ってきている。

 ハアッと息を吐く。

「ああ、もう分かった。分かりましたよ」

 諦めた僕はグラスを受け取る。

 間接キスなんてものはガキじゃあるまいし気にすることもない。

 だけど一応マナーとして旭が口をつけていた部分とは反対側の部分に口をつける。

 流し込んだ液体。

 口に広がったのは強烈な甘味だった。

「甘! ナニコレ、めっちゃ甘い!」

 思わず声を張ってしまう。

 なんだこれ。絶対に分量間違えてるだろ。

「甘いでしょ。人の不幸」

 面白いものが見れたとばかりに旭がほくそ笑む。

「糖尿病になるわ」

 こいつ、飲みきれなくなったから押し付けやがったな。

「存分に味わいたまえ」

 嬉々としてそう言い残し、旭の目はメニュー表へと移る。

 こいつは……。

 とはいえ、興味を逸らすことには成功した。

 後はこのグラスだけだ。

 チビリ、チビリと。

 度の過ぎる甘さに辟易へきえきしながらも。

 僕は不幸の味を噛みしめる。

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