愛も財産も望む者は……。
白兎
愛も財産も望む者は……。
ある狭く暗いイメージの部屋に、ジョシーはいた。彼女の前には紺色のスーツを着た紳士が座る。
「君は多くの経験をしたようだ」
と彼はジョシーに言った。
「ええ、そうよ」
とジョシーが答える。
「だが、君は幸せを手に入れることは出来なかった。多くを望み過ぎた」
と男が言う。
「いいえ、それは違うわ。誰だって、多くを望むものよ。欲しいものは欲しい。ただ、あたしは運が悪かったのよ」
とジョシーが答えた。
「君はそう考えるが、私の考えは違う。何かを得るためには、何かを諦めなければならない。愛を望めば、財産を諦め、財産を望めば、愛を諦める。そうして均衡が保たれるのだ」
男の言葉に、
「あら、それはあなたの哲学なのかしら? あたしの哲学は違うの。愛も財産も欲しい。手に入れることが出来るラッキーな人がいて、その両方を手に入れられないアンラッキーな人がいる。これが均衡と言うものよ。そして、あたしはアンラッキーな方だった。ただそれだけ」
とジョシーは答えた。
「君が両方を望み、そのために何をしたか? 何をして、今、君はここにいるのか? それをきちんと理解できていないのかな?」
男が言う。
「あら、欲しいものを手に入れるために、あたしがした事を、あたしが知らないなんてことはないわ」
ジョシーは平然とした顔で答えた。
「それなら、君は罪を認めるかね?」
男が聞くと、
「罪ですって? 欲しいものを手に入れる事が罪ですって? それじゃあ、世の中、みんな罪だらけだわ」
とジョシーが笑って言う。
この二人の会話をマジックミラー越しに見ていた刑事たちは、
「こいつは精神異常者だな」
と頷き合った。
愛も財産も望む者は……。 白兎 @hakuto-i
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