10 物語の終わり方のはなし
物語をきちんと着地させることは重要だけど、着地点は作品の目的によって違う、という話です。
『新装版 タイム・リープ〈上〉〈下〉 あしたはきのう』(高畑京一郎/著)を読みました(作品自体は再読です)。
名作ですね。そして何気にようやくKADOKAWAの本を紹介します。
「新装版」とあるように、1996年に刊行されたものを加筆・修正したもの。
下巻の巻末には、なんと! 筆者が書き下ろした「『タイム・リープ』の思い出」が収録されています!
買わないわけにはいかないですね(再再読のために本屋さんへ行ったら下巻しかありませんでした……買いました下巻だけ……)!
……本題に入ります。
序章と第一章から第五章までが上巻。第六章から第八章、終章、「おまけ」、「『タイム・リープ』の思い出」が下巻に収録されています。
終章の後の「おまけ」までが本文です。
不思議ですよね、「おまけ」。
初読時には文庫化するときに「おまけ」を「おまけ」として書き下ろしたのかな、と思っていましたが、違いました。
その理由は「『タイム・リープ』の思い出」にありました。
引用すると長くなってしまうため簡単に説明すると、編集者の方に言われて不本意ながら書き足した部分だったそうです。
当時を振り返り作者は、自分が間違っていた、と書いています。
“あのまま終章で終わっていたら、宙ぶらりんで落ち着かない気分が残ったでしょう。
「前後を読めば、そうなると推測できるだろう」
と言うのと、
「実際にそうなった」
と言うのとでは、重みと安心感が違いますからね。”
(下巻182ページ、8行~12行より)
「宙ぶらりん」ではありませんが、「あともう少し先まで書いてほしかった」と思ってしまう作品はいくつかあります。少し考えてみました。
もちろん結末は書きませんが、行は開けておきます。
『まだなにかある(上)(下)』(パトリック・ネス/著 三辺律子/訳)
解決のしどころが難しい作品なのですが、私が読んだ本の中で「あともう少し先まで書いてほしかった」の代表格です。
同作者の『混沌の叫び』シリーズも加えたいところです。
『屋上ミサイル』(山下貴光/著)
読了後、私の母は「本のページが欠けている」と言いました。
こちらは、続編の『屋上ミサイル 謎のメッセージ』で解決しています。
上記の二作品、メインストーリーはどちらもきちんと完結しています。「着地している」と言い換えてもいいでしょう。消して「宙ぶらりん」ではありません。
では、なぜ『タイム・リープ』は、終章で終わっていたら「宙ぶらりん」だったのでしょうか?
上記の二作品とは何が違うのでしょうか? 好みの問題でしょうか?
私は「主人公の目的に決着がついていないから」だと思いました。
頭の中で『タイム・リープ』と同じカテゴリーに入れている漫画作品があります。
『冷蔵庫の中に象』(杉山小弥花/著 ※作品は『明治失業忍法帖』1~4巻の巻末に収録されています)
こちらは「速水
作中で予知夢を一種の
“記憶の時間軸がコイル状にねじれることで起きる一種の
(『明治失業忍法帖』4巻、245ページ、一コマ目より)
そしてこのコマの前後に図が書いてあります。そう、この図です!
この図が結論に導いでくれました。
過去から未来へと続く一本の線。その線の終わりに円が乗っています。
円の部分は時間の流れが円環構造であるため、始まりと終わりが存在しません。
この円の中を移動している状態がタイムリープなのだと思います。
『タイム・リープ』では作者がこの円環構造で仕上げるつもりだったそうです。
ですが、主人公たちの目的は「円から抜け出し、新たな線を引くこと」です。
これは『タイム・リープ』でも『冷蔵庫の中に象』でも共通した目的だと思います。
この目的が果たされるかは作者次第ですが、目的が果たされたか否かを書かないと、やはり「宙ぶらりん」なのではないでしょうか?
「円から抜け出し、新たな線が引かれる」もしくは「円から抜け出さ(せ)ず、円を描き続ける」
だから終章までの『タイム・リープ』は「宙ぶらりん」であり、「おまけ」が書かれたことで物語の決着が判明した(着地した)、と私は考えました。
物語をきちんと着地させること。当たり前のように感じますが、何をもって着地とするかは、作品の目的により異なるのだと思います。
そして時に作者自身にも着地がわからないことがある、と知ることができました。
『タイム・リープ』は、まだ今ほど本を読むのにも慣れていないころ、母から勧められた作品です。パズルのように次々とはまっていく物語に夢中で読んだのを覚えています。
ふと読み返したくなる一作です。
新装版の存在は、図書館で知りました。表紙が見えるように本が置かれた段のところで。図書館の方、本当にありがとうございます。
このタイミングで新装版に出会えてよかった!
そしてこれは変な二部構成エッセイ。ええ、そうです。
長編のラストを書きました。書き終えたわけではありません。
思いついたからラストシーンらへんを書いただけです。
打ち切りのジャンプ作品みたいな終わり方になりました。
頭の中でラストの流れを考えていて、これをどうやって結末に入れればいいんだろう、と悩んでいる部分がありまして。
今書いたラストシーンだとどうしても入れられない。サブストーリーだから無視してもいいか、と。
「『タイム・リープ』の思い出」を読んで、やはり謎が残るのも「宙ぶらりん」なのかな、と立ち止まって考えることができたのでした。
そして物語の終わり方について、再考するよい機会となったのでした(「プロットのはなし その2」でも似たようなことを書いてますが、とても良い実例が見つかった、という話でした)。
もちろんラストは書き直し中です。
今回のエッセイ、当初の結論は「物語をきちんと着地させることは重要」という段階で終わっていました。「着地点は作品の目的によって違う」という部分を書き足せたのは、『冷蔵庫の中に象』と並行して、より深く考えることができたからだと思います。
両者をパンケーキに例えると、『タイム・リープ』はシンプルなバターとメープルシロップのパンケーキで、『冷蔵庫の中に象』は生クリームとフルーツがのったパンケーキのイメージです(どっちもおいしいです)。
伝わらない気がしますが、伝えておきます。万が一に備えて。
では次回。
必要なことはすべてそこに書いてある キヤ @diltale
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