9 読者を引っ張る要素のはなし その2

 その文章が好きでついつい読み続けてしまう、という話です。


 「読者を引っ張る要素は何かを考えたい」二作品目は、


 『世界が終わってしまったあとの世界で』

 (ニック・ハーカウェイ/著 黒原敏行/訳)


 です。


 ざっと内容を説明すると「最終戦争後の世界で主人公たちが火災の消火を依頼され、陰謀に巻き込まれる話」です。

 本を紹介するならばもっと面白く書けないのか、とお思いでしょう。大丈夫です。私もそう思っています。

 以下、ネタバレになるかもしれないので行を開けときます。




 この小説は上下巻です。上巻は一章から八章まで、下巻は九章から十六章とエピローグという構成。目次がないので間違っているかもしれません。


 一章は主人公と親友、そのほかの仲間たちが、火災の消火を依頼されトラックに乗り込み出発。遠くの火災現場まで少し走ったところで終わっています。

 続く第二章は主人公と親友の幼少期。第三章は大学時代……と続いていき、なんと下巻の九章まで過去の話(生い立ち)なんです。

 上巻では陰謀の「い」の字もわからない!


 正直なところ第二章の途中で思いました。

 私はいったい何を読まされているのだろうか、と。


 ではなぜ読んだのでしょう?


 文章が「上品さに欠けるP・G・ウッドハウスのようだった」から、です。

 あの文章をなんと表現するものなのかは存じ上げません。私はどばどば浴びていたい文章と称しております。


 この小説の文章については、訳者のあとがきでこう語られています。


 “語り口も、「いまのながーい話、要らんやん!」と思わず関西弁でツッコミを入れたくなるほど饒舌で、しかも脱力系ギャクに満ちている”

 (下巻454ページ、15行~17行より)


 もちろん過去の話がすべて「要らん」というわけではなく、後の話にきちんと生きている。それはもう、爽快感すら覚えるほどに。

 景色は楽しいけれどなかなかのハードな登山をして、ようやく山頂に到達したような気分を味わえます(登山はしたことないです)。


 そしてこの小説をなぜ紹介したかといいますと、謝辞で作者がこう書いていたのです。


 “ぼくも自分の小説を書くために自分の好きな物語すべてからいろんなものを借りて(“盗んで”ともいう)いますが、とくに敬愛する作家はP・G・ウッドハウス(中略)です。内容ではなく、書き方を教わったのです。”

 (下巻450ページ、9行~11行より)


 はい、見事に釣られました。


 その文章が好きでついつい読み続けてしまう、というのも読者を引っ張る要素の一つではないかと思います。

 もちろん面白いストーリーに追加する一要素に過ぎないかもしれませんが……。


 余談ですが、謝辞の一行目もよいことが書いてあります。

 興味ある方は、ご一読を。




 P・G・ウッドハウス作品以外で「どばどば浴びていたい文章だった小説」を紹介しておきます。


 『ロボットには尻尾がない 〈ギャロウェイ・ギャラガー〉シリーズ短篇集』

 ( ヘンリー・カットナー/著 山田 順子/訳)


 『平凡すぎて殺される』『有名すぎて尾行ができない』

 (クイーム・マクドネル/著 青木悦子/訳)


 これにジャスパー・フォード作品を加えるか迷うところです。文章というよりも、特殊な設定をさりげなく押し込んでくるところが好きなんですよね……。


 そして日本の小説で思いつくものがありません。どなたかご存じでしょうか?


 最後に白状しておきますと、私は図書館利用者です。ごめんなさい。

 全く本を買わないわけではありませんが、紹介する本のほとんどは、おそらく図書館で借りて読んだ本になります。本当に申し訳ありません!


 次回……続けていいのでしょうか?

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